究極の“自我”がここにある

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 天井が切り裂かれる。ガラスの破片に映り込む。妹の幻影が現れる。あらゆる心理描写が一線を越えている。京子の過去・現在・未来を一つのタイムラインに集めて、トラウマと今居る姿とこれから先を全てワンシーンに詰め込む気概にうなされてしまう。
これまでに4本の小説を発表し、絵の個展も開いている。あり余るイマジネーションの矛先が自身の黄色い部屋にまで及び、嘘と本当との境目を失くす。

 まくし立てるように言葉が交わされる。たった78分の作品でも体感時間はおよそ120分の重厚な内容。「四つん這いになってごらん。犬のように吠えてごらん」とサディスティックな描写が続いても、過激なシーンをいかにも過激に捉えない。現実世界にありふれた当たり前の景色として映し出す。園監督にしかできない、究極の“自我”がここにある。

 虚構と現実が入り乱れ、作品の中の何を信じればいいのか分からなくなる。それは京子の心情に寄り添うことになる。ガラスの破片に映った顔は切れ端に過ぎず、またその表情も断片でしかない。突き刺す。切り刻む。叩き割る。破壊にも似た衝動が、観る者のあらゆる感覚を奪っていくだろう。

 身体がもぬけの殻となり、心が行方不明になる。“自分”というものが見当たらない部屋で、京子は何を見るのか。
京子はどこか他人で、どこか自分だ。彼女自身の中の京子が、それを観ている我々の中でも泣き果て、または笑い続けている。

ストーリー

 作家の京子(冨手麻妙)はアーティストとしてカリスマ的人気を誇る。極彩色の部屋で分刻みのスケジュールをこなす日々の中、寝ても覚めても悪夢が消えず、絶望のどん底に叩き落とされていく。
自分が京子であるのか、京子を演じているのか。虚構と現実が入り乱れる中、彼女の秘密の過去が暴かれていくーー。

1月28日(土)、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

監督・脚本:園子温
キャスト: 冨手麻妙、筒井真理子、不二子、小谷早弥花、吉牟田眞奈、麻美、下村愛、福田愛美、貴山侑哉
配給:日活
2016年/日本映画/78分
URL: 日活ロマンポルノリブート

Text/たけうちんぐ

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