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  • 2017.01.07

「21歳で女は終わる」美しいモデルの光と闇を映した衝撃作『ネオン・デーモン』

16歳のジェシーはトップモデルの夢を叶えるために田舎町からロスへやって来た。チャンスを掴んでいく中、嫉妬心を燃やすライバルたちが彼女を引きずり降ろそうとする——。『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督最新作。

たけうちんぐ 映画 ネオン・デーモン ニコラス・ウィンディング・レフン エル・ファニング キアヌ・リーブス  ジェナ・マローン 
© 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

 本当に恐ろしい。見終わった後、その美しさと危うさのギャップに思わず言葉を失う。
それは怪物や幽霊にも勝っている。女のプライドが立ちはだかる。ジェラシーが入り混じる。そこには、閃光と鮮血に塗れた“悪魔”が誕生しているのだ。

 2016年度のカンヌ映画祭で賛否両論を巻き起こした、『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督の最新作。主人公ジェシーをエル・ファニングが演じ、 ジェナ・マローン、アビー・リー、カール・グルスマン、キアヌ・リーブスらがキャストに名を連ねる。

 

冷え切った視点で美しい肢体を切り取る

たけうちんぐ 映画 ネオン・デーモン ニコラス・ウィンディング・レフン エル・ファニング キアヌ・リーブス  ジェナ・マローン
© 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

 覗いてはいけない世界を覗いてしまった。それも向こうに見つかった気がしてヒヤヒヤする。カメラを見つめるジェシーの視線がスクリーンを突き破り、「あなたもそうだろう?」と問いかけてくるかのようだ。

 世の中が憧れる、このモデル業界では、“21歳で女は終わる”という誰も聞きたくない定義が常識の一つだ。美への執着が蟻地獄のように女たちを巻き込んでいく。
彼女たちの出口を奪うのはプライドとジェラシー。時間が経つとあっさり立ち位置を失う世界だ。ジェシーの成功に舌打ちするモデルたちの切実な想いが、彼女たちを心に武器を持つ悪役に変えていく。

 カメラが冷え切っている。レフン監督の切り取る映像が、人が本来持っているはずの体温を完全に消し去る。そこに残るのは美しい肢体と汚い感情のみ。あくまで造形美として映す。それによって本来の意味の“美”を観客に問いかける。
息を止めるくらい緊張感溢れるカットの連続は、一枚一枚が写真のように時間を止めて言葉を失くしている。
それはとてつもなく甘美で、思わず酔いしれる。まるで騙されているのが分かっているのにあえて行くような気持ちに陥るのだ。

ナルシズムの極地を描く

たけうちんぐ 映画 ネオン・デーモン ニコラス・ウィンディング・レフン エル・ファニング キアヌ・リーブス  ジェナ・マローン
© 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

 ジェシーは出演したファッション・ショーで幻覚に囚われ、明らかに変わり果ててしまう。そこでは“ネオンドラッグ”とも名付けるべきか、フラッシュと注目を浴びるジェシーが恍惚とした表情を浮かべ、激しい点滅と漆黒の闇に身体を委ねていく。その様はモデル版『2001年宇宙の旅』とも言うべきか、ボーマン船長が未知なる世界に触れたように、ジェシーはいまだかつて味わったことのない快楽に溺れていく。

 その後の打ち上げで、かつて成功をともに分かち合ったカメラマン志望・ディーンの誘いを拒否した彼女が見違えるように様変わりするのはメイクのせいか、演技のせいか。純粋で素朴な少女から“悪魔”の片鱗を見せる女へと変貌を遂げる、エル・ファニングの芝居の振り幅が計り知れない。その演技力すら女性の恐ろしさとして捉えてしまう。幼さと艶やかさが共存する表情が本作の大きな見所だ。

 光を浴びると、その姿は手に取って分かるように輪郭を現す。だが、当の本人はあまりに眩しくて何も見えなくなる。モデル業界に限らず、そのズレが毒となって心を蝕んでいくのだろうか。ナルシズムの極地を描いた作品である。ここに浸ると、もはや人間として元の世界へ帰って来れないのかも知れない。

 美が“悪魔”の牙を剥き始めると、そこに注がれていた愛情が姿を変えて襲いかかる。
一流デザイナーのロバートがジェシーに心を奪われ、「作り物の美しさはすぐにバレる」と言い放つ。しかし、作り物ではない美しさもまた脆くて儚いものである。

ストーリー

 トップモデルを夢見て、ジョージアの田舎町からロサンゼルスにやって来た16歳の美少女ジェシー(エル・ファニング)。インターネットで知り合ったカメラマン志望のディーン(カール・グルスマン)が撮影した写真を手に、モデル事務所に足を踏み入れる。オーナーのロバータ(クリスティーナ・ヘンドリックス)に才能を見抜かれ、瞬く間にスター街道をのし上がっていく。
だが、ライバルのモデルたちは黙ってはいない。異常な嫉妬心を燃やす彼女らはジェシーを引きずりおろそうとする。やがてジェシーもまた自身の中の野心を剥き出しにし始め、美貌がナルシズムの“毒”に染まり果てていく――。

1月13日(金)、TOHOシネマズ六本木シネマズほか全国順次ロードショー

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
キャスト: エル・ファニング、カール・グルスマン、ジェナ・マローン、ベラ・ヒースコート、アビー・リー、クリスティナ・ヘンドリックス、キアヌ・リーブス
配給:ギャガ
原題:The Neon Demon/2016年/フランス・デンマーク・スウェーデン/118分
URL:映画『ネオン・デーモン』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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