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  • 2017.01.14

園監督にしか映せない、究極の“自我”がここに!アナーキーすぎる問題作『アンチポルノ』

人気女流作家・京子は分刻みのスケジュールの中、その苛立ちをマネージャー・典子にサディスティックにぶつける。でも、それは現実? 私はここに生きているの?——全ての“自我”に問い掛ける園子温監督最新作。

たけうちんぐ 映画 安置ポルノ 園子温 日活ロマンポルノ 冨手麻妙 筒井真理子
© 2016日活

 生きている間に人はどれだけ嘘をつき、作り笑いを浮かべるのだろう。そこに自分自身の人生は存在するのだろうか。
京子は寝ても覚めても終わらない悪夢にうなされて、今日も“お芝居”を続けている。
爆笑、吐き気、絶望、陶酔を繰り返す。まるで二日酔いのような彼女の姿は、あなたにとって完全に“他人”と言えるだろうか?

 日活ロマンポルノリブート企画の第4弾として作られた、『冷たい熱帯魚』『地獄でなぜ悪い』の園子温監督が脚本を書き下ろした完全オリジナルの最新作。園監督が見出した新しいミューズ・冨手麻妙が裸上等で女流作家・京子を全身全霊で演じる。相手役のマネージャー・典子は実力派女優の筒井真理子。
極彩色に彩られたファンタジックな世界観と、アナーキーで危うい物語。その舞台で園監督は現代に生きる人々がもがき苦しむ“自我”というテーマを浮き彫りにする。

 

“作られた”世界に京子がいる

たけうちんぐ 映画 安置ポルノ 園子温 日活ロマンポルノ 冨手麻妙 筒井真理子
© 2016日活

 正直、最初は京子についていけなかった。マネージャー・典子を奴隷のように扱う様が憎らしく、ナチュラルハイに出来上がった姿を見せ続けられても、ただ単に痛々しい。言葉は汚く、行動は荒々しい。共感も同情も一つも生まれない。シンプルな舞台セットで独壇場を見せられているようで、その世界につま先すら入り込めなかった。

 だが、その全てに意味があった。途中から天変地異を起こす。物語中盤の《仕掛け》によってガラリと世界を変えて、一気に没頭させる展開に入り込む。京子の嘘くささも舞台の簡素さも、その全てが必要不可欠な要素だった。

 京子は成功者だ。お金にも名声にも困らない。近づいてくる者は皆笑顔を見せ、彼女に好かれるように美辞麗句を並べる。その全てが芝居じみたセリフと、嘘で塗り固められた人物相関図。彼女が戸惑うのも無理はない。全てが作られた世界のようで、用意されたキャラクターのようだ。
映画の内外から京子を見つめていく展開に、共感と同情を一気に集めていく。自我を破綻させて赤裸々に感情をぶつけていく姿から、観ていると心の中に京子を宿らせていく。

究極の“自我”がここにある

たけうちんぐ 映画 安置ポルノ 園子温 日活ロマンポルノ 冨手麻妙 筒井真理子
© 2016日活

 天井が切り裂かれる。ガラスの破片に映り込む。妹の幻影が現れる。あらゆる心理描写が一線を越えている。京子の過去・現在・未来を一つのタイムラインに集めて、トラウマと今居る姿とこれから先を全てワンシーンに詰め込む気概にうなされてしまう。
これまでに4本の小説を発表し、絵の個展も開いている。あり余るイマジネーションの矛先が自身の黄色い部屋にまで及び、嘘と本当との境目を失くす。

 まくし立てるように言葉が交わされる。たった78分の作品でも体感時間はおよそ120分の重厚な内容。「四つん這いになってごらん。犬のように吠えてごらん」とサディスティックな描写が続いても、過激なシーンをいかにも過激に捉えない。現実世界にありふれた当たり前の景色として映し出す。園監督にしかできない、究極の“自我”がここにある。

 虚構と現実が入り乱れ、作品の中の何を信じればいいのか分からなくなる。それは京子の心情に寄り添うことになる。ガラスの破片に映った顔は切れ端に過ぎず、またその表情も断片でしかない。突き刺す。切り刻む。叩き割る。破壊にも似た衝動が、観る者のあらゆる感覚を奪っていくだろう。

 身体がもぬけの殻となり、心が行方不明になる。“自分”というものが見当たらない部屋で、京子は何を見るのか。
京子はどこか他人で、どこか自分だ。彼女自身の中の京子が、それを観ている我々の中でも泣き果て、または笑い続けている。

ストーリー

 作家の京子(冨手麻妙)はアーティストとしてカリスマ的人気を誇る。極彩色の部屋で分刻みのスケジュールをこなす日々の中、寝ても覚めても悪夢が消えず、絶望のどん底に叩き落とされていく。
自分が京子であるのか、京子を演じているのか。虚構と現実が入り乱れる中、彼女の秘密の過去が暴かれていくーー。

1月28日(土)、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

監督・脚本:園子温
キャスト: 冨手麻妙、筒井真理子、不二子、小谷早弥花、吉牟田眞奈、麻美、下村愛、福田愛美、貴山侑哉
配給:日活
2016年/日本映画/78分
URL: 日活ロマンポルノリブート

Text/たけうちんぐ

次回は <あまりの重厚感にまさに“沈黙”する…日本人俳優が集結した『沈黙―サイレンス―』>です。
隠れキリシタン弾圧の江戸時代、若きポルトガル人宣教師が日本人信徒たちの想像を絶する迫害を目の当たりにする——。巨匠マーティン・スコセッシが日本人キャストで描く衝撃作。

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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