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  • 2017.01.19

あまりの重厚感にまさに“沈黙”する…日本人俳優が集結した『沈黙―サイレンス―』

隠れキリシタン弾圧の江戸時代、若きポルトガル人宣教師が日本人信徒たちの想像を絶する迫害を目の当たりにする——。巨匠マーティン・スコセッシが日本人キャストで描く衝撃作。

たけうちんぐ 映画 マーティン・スコセッシ 沈黙 アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ
©2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

 上映後、あまりの重厚感にまさに“沈黙”する。
強い信仰心が人を殺め、宗教そのものが疑われるこの時代に、信じることとは一体何かを突き詰める。

 今、この作品が世に放たれることに意味を感じざるをえない。神の名の下にライフルを撃ち放つ。身体に爆弾を巻いてスイッチを押す。そんなニュースが溢れ人々が命を落としていく中、それを眺める我々が“沈黙”する代わりに、『沈黙ーサイレンスー』は大きな叫び声を上げる。そして胸ぐらを掴んで訴えかけてくるのだ。
 
 『タクシードライバー』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』など数多くの作品で世界中の映画人に尊敬される巨匠マーティン・スコセッシの新作は、日本人作家・遠藤周作の名作小説『沈黙』の映画化。
実現まで28年間もの歳月を費やした本作には、『アメイジング・スパイダーマン』のアンドリュー・ガーフィールド、『シンドラーのリスト』のリーアム・ニーソンに加え、日本から窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮ら実力派が参加している。

 

キチジローの親しみやすい“人間臭さ”

たけうちんぐ 映画 マーティン・スコセッシ 沈黙 アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ
©2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

 信仰を貫くと殺される。棄教すると神に背くことになる。踏み絵の上、震える足が究極の選択を強いられる。命以上に大切なものが、人間以上に信じるものがある。その信念の数々が、今の時代を生きる我々に強く訴えかけてくる。

 日本人キャストが名を連ねるのも見所の一つだ。それはハリウッド作品でよく見る異質感を覚える日本人像とはワケが違う。日本映画界を代表する俳優たちの演技合戦が楽しめる。生み出す作品を数々のオスカーに導いてきたマーティン・スコセッシが信頼を寄せるのもよく分かる、日本だけに留まらない才能がここに集結している。

 中でもキチジロー演じる窪塚洋介の演技が光る。キチジローは神を信じ、人を裏切り、それでも人を愛し、運命を憎む。死を免れることの罪悪感を背負いながら、信念よりも生に執着する人間臭さを身に纏う。時代を飛び越えて最も感情移入しやすい人物として、信仰心故に命を捧ぐ者たちの苦悩を見つめていく。 作品を取り巻く重苦しいムードの中で唯一、人間の奥深さと軽さを併せ持つキャラクターを体現する窪塚洋介の振り幅に圧倒されてしまう。

「目を開いて、祈れ。」

たけうちんぐ 映画 マーティン・スコセッシ 沈黙 アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ
©2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

 祈る時、人々は目を瞑る。目に見えない存在を信じるために、または己の精神に問いかけるために。しかし、フェレイラは弟子のロドリゴにこう言う。

「目を開いて、祈れ。」

 人の目に見えるもの、すなわち人であり、物であり、景色。その中に神は存在しない。目を開いて祈ろうとも、その相手がいない。それでも、ロドリゴは意を決してある選択をする。

 マーティン・スコセッシはこれまで多くの作品で狂信的に何かを信じ、何かのために魂を貫き通す人物を描いてきた。本作もまた自らの命を引き換えにして、自らの信念を天に捧げる人々が目を瞑る。それも、永遠に目を閉じることになる。もう二度とその目は開かれないだろう。

 熱心なキリシタンたちが次々と命を落としていく中、ロドリゴらが祈りを捧げる神は一体何を救うのか。
姿なき者を信仰する彼らが天から耳にする“沈黙”が、処刑の際の波しぶきを破壊音に、燃え滾る炎を炸裂音に聞こえさせる。断末魔が耳を突き刺し、痛々しく胸を打つ。ロドリゴは目の前にいる人々の命を救うため、神の絵を踏むのか。それとも――。
神と人間という根源的なテーマの先に描かれるもの。その一つの答えが姿を覗かせた時、壮大な景色の中で思わず“沈黙”してしまう。

 空を見上げても答えは映らない。地面を見ても何もない。エンドロールの演出は何を訴えかけるのか。 草木のざわめき、小鳥のさえずり、虫の鳴き声。それぞれが雄弁に語る中、神を信じる者たちの“沈黙”の中の叫び声。他人の信じるものを疑い、自分の信じるものさえ見当たらない時代に生きるなら、ここから聞こえる声を確かに感じ取る必要があるのかも知れない。

ストーリー

 17世紀、江戸時代の日本では幕府によりキリシタン弾圧が行われていた。日本での布教活動に力を注いでいた宣教師フェレイラ(リーアム・ニーソン)が捕らえられて棄教したことを知った弟子ロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライバー)は、日本人であるキチジロー(窪塚洋介)の手引きで長崎に潜入する。そこで、弾圧の中で虐げられる隠れキリシタンらの想像を絶する現状を目の当たりにする。
やがて幕府は取り締まりを強め、キチジローに裏切られ、ロドリゴたちも捕らえられてしまう。命の危険に晒されても、ロドリゴは信じる心を失わない。だが、棄教することでキリシタンたちの命を救うことができる。その狭間でロドリゴは自身の弱さと向き合い、究極の選択を強いられる。それでも、神は何も言わず黙ったままであった――。

1月21日(土)全国ロードショー

監督:マーティン・スコセッシ
キャスト:アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ
配給:KADOKAWA
原題:Silence/2016年/アメリカ映画/165分
URL: 『沈黙―サイレンス―』公式サイト

前売券

Text/たけうちんぐ

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ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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