「おかあさんは優しい、けど怖い」ゴールデン・グローブ賞受賞の青春物語『レディ・バード』

映画『レディ・バード』の不満げなクリスティン(シアーシャ・ローナン) 2017 InterActiveCorp Films, LLC./Merie Wallace, courtesy of A24

「17歳」の響きにときめきを覚える人もいれば、息が詰まる思い出が蘇る人もいる。
前者にも後者にも思い当たる節があるであろう、青春時代における理想の大きさと現実の小ささとのギャップ。友達、恋愛、受験など、些細な悩みごとでも世界の終わりをすぐに思い浮かべる。
そこから溢れる希望と挫折は痛々しくも微笑ましく、多くの大人になってしまった「17歳」を激しく揺さぶり続けるに違いない。

『20センチュリー・ウーマン』の好演が記憶に新しい女優グレタ・ガーウィグが、自伝的要素を取り入れて監督・脚本を手がけた青春ドラマ。
初監督作にして本年度ゴールデングローブ賞で二部門を受賞し、アカデミー賞にもノミネートされるなど大きな話題となった。
『ブルックリン』のシアーシャ・ローナンを主演に迎え、テレビや舞台で活躍するベテラン女優ローリー・メトカーフ、『君の名前で僕を呼んで』の主演で賞賛を浴びたティモシー・シャラメなどが脇を固める。

満足の中で不満足を覚える焦燥感

映画『レディ・バード』のクリスティン(シアーシャ・ローナン)とその友達 2017 InterActiveCorp Films, LLC./Merie Wallace, courtesy of A24

 閉塞感漂う片田舎の町で、クリスティンは「自分の居場所はここではない」と雑誌の中のニューヨークに夢を見る。
カトリックの伝統として聖人の名を授かるように、ロックスターが世界に認知されるように、クリスティンは「レディ・バード」と名付けることで真のアイデンティティを見出そうとする。ネットやゲームのハンドルネームでもなく、リアルで母マリオンにまで呼ばせる始末。カトリック系高校にふさわしくない、ピンク色に染めた髪とガーリーなファッションでキメている。

 父は鬱で職を失い、お金がないから地元の大学に行かされそうになる。自我が脅かされて思い通りにいかず、今にも叫びそうな(実際に何度も叫んでいる)青春を謳歌している。
だからといって孤独ではない。彼女にはいつでも笑い合える仲間がいて、イケてない友達と自慰の仕方で盛り上がり、演劇サークルに入ればすぐに溶け込む。やがて彼氏もできて、初体験を済ませる。一見、ある程度満足にいってる高校生だ。それでも理想が大きい分、現実のセックスがあっけなさすぎて絶望する。

 満足の中で不満足を覚える焦燥感は、きっと誰しも少なからず経験があるはず。名前、家、出身地…いずれもクリスティンは偽ることで自分自身を大きく見せようとする。そこでありふれた青春映画に収めないのは、母マリオンとの関係性だ。