まさにテクニシャン!必殺三点責めの「三峯採戦」

春画 渓斎英泉《古能手佳史話(このてがしわ)》

セックスのときにキスを楽しみながら他の部分を同時に愛撫されると、感度が増す気がしませんか?

江戸時代より、女性は男性よりもオーガズムを感じるのが遅いと考えられていました。そのうえ「楽しい交わりは人生の楽しみのひとつである」なんて考えが江戸時代にあったように、お互いが楽しい営みを送ることが大切で、女性が挿入を欲しがるまでの前戯も重要視されていたようです

渓斎英泉の《閨中紀聞/枕文庫》には丁寧な前戯の方法が書かれてあり、三点責めから緩急をつけた挿入までの流れが書かれてある。

気になるその内容は、

和合の法は、リラックスできるような面白い話をして、雰囲気が良くなったら男女ゆるゆると帯を解き、女性を抱きかかえ、肌を合わせてから、玉門(女性器)に向かうべし。
先ずは口を吸い、乳を触り戯れ、相手に自分の性器を握ってもらう。
男は相手の毛の生え際より手をなで下ろして、クリトリスを探り、指でそろそろと触るべし。
女性は濡れてくるにしたがつて息が荒くなり身体が火照りだす。
早く挿れたがる様子を伺い、静かに心を鎮めて行いを続けるべし。

と、ここまでは準備段階に過ぎない。我慢できずにガバッと本能のままにフィニッシュまで突き進んではならないのだ。丁寧に相手の様子を伺い、余裕な雰囲気を持つことが肝心。そして愛撫を続け、挿入まで進んでいき、ここで三点責め「三峯採戦(さんぽうさいせん)」がはじまる。

三峯とは、口と鼻の先の「上峯」、両乳の「中峯」、性器の「下峯」、これら女性の身体の三か所を指す。まず、口を吸いながら顔を合わせて鼻息をかけ(上峯)、そのまま相手の胸をつまんだりさすり(中峯)、相手の唾液を飲めば女性の精気をとるので良い薬となる。そして女性に少し挿入しかけることで(下峯)、たっぷりと濡れてきて受け入れてくれるようになる。

春画 渓斎英泉《地色早指南(ぢいろはやしなん)》

古来より、女性の性感帯は「口唇・乳・膣」であり、これらを同時に愛撫することが女性の感度をより高められると考えられていた。男根を挿入し、胸を触りながらキスをすることは「三国攻め」とも言われ、余談だが、これらにお尻が加わると四所攻めになる。

キスをしながら胸を愛撫し、ゆっくり、とっくりペニスを挿入しかけることで女性はそろそろ挿入だと思って濡れてくるのだろうし、この挿入時の回数「九浅一深法」が絶妙である。9回浅くし、1回だけ深く挿入を続ける。そして、相手をきつく抱きしめ、女性がオーガズムを感じるまでは目を閉じずに鼻息を止め、かたく抱きしめピストンを続ける。女性が絶頂に迎えそうになったらぐっと奥を突く。女性が高まり絶頂を迎え、男性も絶頂を迎えられれば陰気を取ることができる。

この枕文庫の内容は、男性に有益な知識として書かれたのであろう。この内容の最後にある「陰気をとる」とは、白倉敬彦氏の『春画に見る江戸の性戯考』によると、陰陽和合の説から、「男は交合によって女の陰気を採ることで健康を保つ」と考えていたのだろうと考察している。つまり、交合は健康の秘訣だと古来から考えられていたのだろう。

そして、この「三峯採戦」では女性の唾液を吸ってあげることで陰気が取れて、女性が健康になるとも書かれている。たしかにセックスをすることでストレスが発散されたり、気持ちが満たされて心が晴れることがあるが、その感覚に似ているのかもしれない。「病は気から」とはよく言ったものですね。

今回は現代でも通用しそうな愛撫の方法を紹介しましたが、個人的にはセックスの前に面白い話をして雰囲気を良くすることや、挿入中の緩急やハグをパートナーとぜひ共有したいと思いました。

江戸から地続きの性を考えるコラム、次回もどうぞお楽しみに!

Text/春画―ル