少女漫画のその先を描く。ひうらさとるさん『聖ラブサバイバーズ』鼎談/ひうらさとる・紫原明子・芳麗

『ホタルノヒカリ』シリーズの作者、ひうらさとるさんの新刊『聖ラブサバイバーズ』(マンガアプリ「Palcy」にて連載中)の1巻が11月13日に発売されました。主人公は長年憧れだったミュージシャンの王子と結婚した35歳のハル。幸せ絶頂の彼女は王子から「フィジカルなことはナシでいいよね」と告げられます。

セックスをしてくれない夫と別れない限り、したくても一生できないのか。

そんなセックスレスの課題と向き合う本作の連載を記念し、ひうら先生、文筆家の芳麗さん、エッセイストの紫原明子さんによる鼎談を実施しました!

少女漫画の先には、生々しい現実がある

――これまで少女漫画で読者を胸キュンさせてきたひうら先生が、セックスレスをテーマにした大人の恋愛を描くという企画自体がすごくチャレンジングだと思いました。まずは今回のテーマに至った理由を教えてください。

ひうらさとる(以下、ひうら)

実は最初からこのテーマにしようと思っていたわけではないんです。編集の助宗さんとかっこいい男の子が登場する漫画を描きたいねという話になり、それで取材を兼ねて友人に恋愛の話を聞いていたらある方が女性用風俗に行ったと。そこからどんどん性の話題が深まって、とてもリアルな話になりました!(笑)
担当の助宗さんとも「少女漫画は基本的に好きな人と結ばれるところまで描くが、そこからの方が圧倒的に長い」という話をして。

助宗(担当編集):

はい、ひうら先生には「ぜひ大人の恋愛を」ということでお願いしました。少女漫画をずっと描いてこられたひうらさんが、「結ばれたその先」を描くというのもキャリア的に面白いなと。

紫原明子(以下、紫原)

やっぱり少女漫画の先には生々しい現実がありますよね。私も固唾を飲んでハルと王子の行く末を見守っています。

ひうら

連載が始まる前に芳麗さんと明子さんにもお話を伺ったんですが、実は1話冒頭のハルと出前の配達員のセックスシーンは明子さんから聞いたご友人の話なんです(笑)。

紫原

まさかあの話がそのまま使われるとは…(笑)。しかも最初のページに登場して、配達員の特徴的な四角いバックや25分のインターバルはもしや!?と思いました。

芳麗

しっかり取材された形跡が至るところに現れていますよね。女性は何歳になってもときめきたい恋心と性欲の狭間で揺れている。そんな永遠のテーマと生きてきたひうらさん自身や、取材されてきた方の経験が漫画に活かされているのがわかります。

紫原

フィクションでありながらルポみたいですよね。セックスレスって謎が深いじゃないですか。妻や夫を思いやる気持ちもありながら、セックスだけ頑なにしないという謎。そのリアリティがすごくある。もし渦中の人が読んだら、気持ちがわかりすぎておかしくなるんじゃないかな(笑)。

芳麗

ハルのようにセックスに対する憧れはあるけど、恋心と性欲が結びつかない人もいれば、冬実(ハルの友人)のように一見幸せそうだけど、夫婦間では解消できない性欲を別の場所で満たしている人もすごく多いですよね。

――どちらのパターンも描かれているからこそ、リアリティがあります。セックスレスの理由も人によって違いますもんね。

紫原

セックスレスにも深い理由がある時とない時があるし、配偶者とだけできない人もいれば、誰ともできない人がいる。ただ、セックスがないことに不満を持っている方の自尊心だけがどんどん下がっていく。さらに悪いことに話し合いをしたところで溝は埋まらないという。

ひうら

そうなんですよね。はっきり“したい”って言えばいいじゃん!と思うかもしれないけど、言ったところで解決する問題じゃないからこそ難しい。

芳麗

コミュニケーション不全なことだけは確かですよね。直接的な態度や言葉ではなくとも、毎日一緒にいると少しずつ互いが傷つけ合っていることはあって。心は許せるけど、身体が相手を拒絶するということはあり得る。

ひうら

そういうことがきっかけで妻の方が夫をまったく受け入れられなくなったというパターンもありますよね。セックスはできないから添い寝だけでコミュニケーションをとっている夫婦の話も聞いたことがあります。双方同意だったらいいけど、片方だけがもし我慢していたら辛いですよねきっと。

芳麗

生活の中にセックスを入れることの難しさもあるのかな。最近30代の子に話を聞いたら、結婚してまだ3ヶ月だけど夫とのセックスに物足りなさを感じると言っていました。なぜなら彼女は聖なるセックスを体験したことがあるんですって。

紫原

聖なるセックス!?どういうこと……?それは気になる(笑)。

芳麗

互いを丁寧に愛撫し合って、深い喜びを得たことがあるから夫の乱雑な触り方ひとつに腹が立つみたいなんですよね。その夫が経験不足なのもあるし、もちろん一括りにしてはいけないけど、女性に優しく触れるということを知らない日本の男性は多いのかな。

ひうら

ロマンチックな雰囲気は恥ずかしいから、半ば強引にいっちゃえばいいと思っている節がありますよね。行くぞー!みたいな、思春期の男の子みたいな部分が残ってる(笑)。

芳麗

悪気はないんですよね〜。

ひうら

あと、40歳くらいになると毎日セックスするほどの体力がないじゃないですか。男性に話を聞く限り、セックスしなきゃいけない空気を感じ取ると萎える、だけど勃たないと言うこと自体に気がひけるみたいで。だから理由を曖昧にしたりギャグにしてみたりするけど、内心は焦っている。したくないわけじゃないけど、身体の構造的に万全な体制じゃないとできない。それも固定概念ですよね。

紫原

元気がないのはしょうがないけど、相手の“したい”に向き合う姿勢を双方が持ち続けることが必要ですよね。自分の欲求に向き合ってくれないことに冷たさを感じるわけで。するにせよ、しないにせよ、そこを何とかしたいですね、例えば勃たないならいつもと違う方法で相手を満足させるとか。

芳麗

まずはフィニッシュしなきゃいけないという考え方から変えていかなきゃですね。こうあらねばと思えば思うほど、苦しくなりますもん。