性を伴う相手はパートナーでなくてもいい

――パートナー以外と肉体関係を持ったり、女性が性を謳歌することに対して世間の風当たりが強いイメージがあるんですが、その辺りのねじれをどう解消すればいいと思いますか?

紫原

セックスは家庭の外に外注してイキイキと生きていくしか!……と言いたいところだけど不貞行為は社会的なリスクが大きく、声高に婚外セックスすればいいとは言いづらいものもありますね…。だからこそ出張ホストとかレズ風俗の需要が高まってるんでしょうね。

ひうら

ハプニングバーを舞台にした劇を観に行ったことがあるんですが、そこに訪れた客が女性の柔らかい身体に触れたことで恋愛対象は異性だけど男性器自体はそんなに好きじゃないことに気づくんです。挿入による快感はあるけど、「やっぱり触れるなら柔らかい方がいいよな」ってセリフが印象的でした。よく考えれば、女性も同性のおっぱいやお尻が好きじゃないですか。

紫原

ゲイの友人も女子会で「この中で誰よりも自分が男性を好きな自信がある。あなたたちは男性の身体が好きなわけじゃないでしょ」と言っていいて、なるほどな、と。案外、男性としたいというより、男性に求められたいという欲望なのかな。

芳麗

判断しづらいね。ただ実際に触れ合ってみないとわからないこともあるから、女性もフィジカルな経験に対して主体的になってもいいと思ってほしい。してもしなくても、流されると後で後悔するから。

紫原

女性でレスに悩む人は、今の配偶者と別れたら自分にはもう相手がいないんじゃないかと思ってシリアスになっていくんですよね。でもAVのジャンルって実はものすごく細分化されているじゃないですか。四十路どころか五十路や六十路モノまであるし、すごくお尻やおっぱいが大きい人とか、やせ細っている人とか。人の性的な好みって本当に多種多様だから、勤勉にマーケットを調べて、うまいこと持ち味とニーズがマッチしたら、きっといつまでもどんなときも、セックスができる!

芳麗

年を取ってからも欲望を満たせるって幸せなことですよね。70代のセックスと聞いて驚く人もいるかもしれないけど、年齢とか容姿とか、あらゆる枠組みを外したらもっと性の可能性は広がっていく気がする。

紫原

私も以前、熟女AVだったら絶対人気になるよって言われて加齢が楽しみで仕方ないです。本番はこれからだと思って生きてます。男性は、きっと色んな需要があることを知っているから、「誰からも必要とされないかも」みたいな切実さを女性が感じていることに気づいていないのかもしれないですね。

芳麗

漫画のセリフにもあった「“してくれない”夫と別れない限り〜」と思っている女性がたくさんいるはず。気持ちを代弁してくれる素晴らしいモノローグだけど、そんな風に思って欲しくはないですよね。

ひうら

色々と知らないばかりに、自分以外の人がもっといいことをしているような気持ちになる時ってありますよね。例えば“イク”って感覚も話には聞くけど、自分で経験するとなんかこれじゃない気がしたり。でもそう思っているなら、色々と自分で試してみたらいいんじゃないかなって思います。

芳麗

ハルも王子とのセックスに対する憧れだけはめちゃくちゃありますもんね。

ひうら

ハルみたいな女性もある意味、解像度が低いかもしれませんね。結婚したらセックスがあるものと思っているわけじゃないですか。自分が言わなくても向こうから勝手に欲情してくれると思っている。だから主体的に努力せず、相手も動かないからハルと王子のように何も進展しないんですよね。

紫原

以前二丁目のドラァグクイーンのお姉さんに、私たちの世界には枯れ専・老け専・看取り専という好みがあると教えてもらったんです。看取り専というのは、介護を必要とするくらいの、今にも死にそうなおじいちゃんが好みの人たちなんだそうなんです。私は、そんな風に解像度高く自分の好みに向き合ったことがないなと反省しました。もしそれくらい熱心に自分の好みと向き合ってみたら、自分が必要としている性的なパートナーは、必ずしも夫じゃないことに気づく可能性だってありますよね。

芳麗

それこそ能町みね子さんや中村うさぎさんもゲイの方と恋愛をぬきにした結婚をされていますけど貴重な関係性を築いているし。パートナー論から問い直した方がいいですね。これまで固定化されていた関係性を壊すのも一つの手だと思います。

ひうら

恋愛関係ではないけど、女性同士でパートナー婚された方もいますよね。必ずしも性を伴う相手がパートナーじゃなくてもいいし、伴わない相手とパートナーになってもいいんじゃないかな。

紫原

友達と結婚するのも全然アリだし、逆にセックスをしない前提で結婚する夫婦が増えたら必然的にセックスレスも減るかもしれない!

ひうら

検査をしないから陽性率が減ってるみたいな発想の転換(笑)。でもセックスしたくない人も絶対いると思う。だからこそ、したい人はしたい人同士ですればいい。そういう意味で出会い系アプリなども需要と供給がマッチしていて面白いですよね。

紫原

でも、私たちってやっぱり真面目ですよね。レスを解消しようと思ったら、自分を深めすぎて宇宙まで行っちゃう感じ(笑)。

ひうら

江戸時代なら、祭りの乱交だけで解消されていそうですもんね(笑)。

芳麗

ただ今回の鼎談はすべて、固定概念を壊すということに集約される気がするな。感情の解像度を高めて、自分が本当に求めていることを知る。それがたとえ全く新しいことでも、どんどん挑戦していって欲しいなと思います。

ひうら

私自身も王子が「ハルといると楽なんだよね」って言いながら、ハルの頭をポンポンってたたく場面が出てくる12話を描いている時にちょっと思うことがあって。

ハルは王子の言葉にときめきながらも、そのときめきで「なんでセックスしてくれないんだろう」っていうモヤモヤした気持ちを封じ込めてしまうんです。その時に、私はこれまで主人公がときめくシーンを2コマくらいで描いてきたけど、もしかしたらそこには4ページにも渡る気持ちがあったのかもしれないと。だから今回の作品では、私自身も解像度を高く、彼女たちの胸の奥底を描いていきたいと思っています。

Text/苫とり子
Photo / サカモトミナミ