身長の高い私がヒールを履いても何も言わなかった彼ら/長井短

幼稚園の時から背の順は一番後ろ。小学校では毎年7センチずつ背が伸びて、卒業する時には160センチを超えていた。一番後ろは中学に入っても高校に入っても変わらなくて、私はそれを、そこまで気にしていなかった。途中から背が高いキャラになっていたら、もしかしたら気になったかもしれないけれど、物心ついてからずっと高身長だとどう気にすればいいのかもわからない。心も背丈も伸び伸び育った私が初めて「あれ、これ微妙‥?」ってたじろいだのは高校に入った頃で、身長160センチ以下の女の子たちのなんとまぁ可愛いことよ‥!私より小さい体の彼女たちはずっと大人に見えた。大きいのって、微妙なの?そんな考えが頭をよぎり始めた頃に、恋に落ちたのが七太郎。

中学までは恋の真似みたいな感情をうっすら、かなり能動的な姿勢で持つことはあっても、誰かのことを「好きだ!」と思うことはなかった(市丸ギン以外)。そろそろ訪れるんじゃないのか?訪れるもんだよな?!まだみぬ恋心への期待は膨らむ一方で、でもなかなかそれは訪れない。クラスメイトがワンクールおきに違う男子を好きだと相談してくるのが鬱陶しいやら羨ましいやらで、でも別に、恋がなくても超楽しいし。私は私で、学校に行ったりいかなかったりしながら自分なりの青春を謳歌していた。そこに!突如主人公として君臨したのが七太郎だったのである。七太郎のことは、恋に落ちる前から知っていた。話したこともある一つ上の先輩。それが、突然、好きな人へと変貌を遂げたのはありきたりな時間の悪戯なので割愛するけど、もうとにかく大好きだった。私よりずっと背の低い七太郎。結構静かな七太郎。好意を伝えるってどうやればいいのかわからなくて、とにかく沢山時間を過ごした。伝記かな?ってくらいお互いの話をして、好きなCDとかDVDを交換し合う。そういう努力はきちんと身を結んで、遂に私は七太郎の彼女になった。二人でいろんなところに出かけた。おしゃれをする日もあればしない日もあって、履きたい時にはヒールを履いた。元々高い身長の私がもっと大きくなることを、彼がどう思っていたのかは知らない。何も言われたことがないからだ。

七太郎と別れて、今の夫と結婚するまでに数人の男性と付き合った。付き合わずに一緒にいることもあった。その男性たちのほとんどが、私より背が小さい、もしくはぴたりと同じ身長の人たちで、彼らは揃って、私の身長やヒールに口を出したことがない。だから私も、そんなことを気にしたことがない。もちろん、対好きな人ではなく「場モテしてぇ」っていう猥雑な思いを抱えている時には身長を気にしたことはあるけれど、それは相手のことを知らないし知ろうとしていないコミュニケーションだったからだ。

どうしてこんな話をしてるかというと、ふと気付いたからだ。私に「ヒール履けないでしょ」って言うのは、みんな女性だった。私の背が高いから、もっと大きくなったら男性よりも大きくなってしまう。だから履けないよね。そういう、知らない国の常識を私に語りかけるのはいつでも女性なのだ。なんでぇ〜?!?!まずそもそも、男性の方が背が高くないといけないっていう固定概念が私の中にない。女性たちはどうして、自分よりも大きい男性を好きなタイプだと言いがちなんだろう。守ってもらえるからですか?私は「守られたくない」をテーマに一本小説を書いているような人間なので、ちょっとわかりません。男性の方が背が高い方が絵としてキマるからですか?ドラマならまだしも、自分たちのデート姿は自分たちで見えないし、そのキメいる?

…少し攻撃的になってしまいました。ごめんなさい。気持ちがわからないことが悲しいのだ。どうしてみんな、そんなに身長差を気にするんだろう。なぜ「自分の方が背が高くなっちゃうならヒールを履くことはできない」と考えるんだろう。背が高い人が良い、と語る友達に「なんで?」と聞いてみたら「だって175センチはあってもらわないと、ヒール履けないじゃん」と返ってきて、だからその!越えたらアウトなルールはなんで!!どこで習った?どうして宿った?私はその始まりが知りたい。