自分が求めているものは? 感情の解像度を高めよう

――ここまでは“パートナー間でどうセックスレスを解決するか”というお話でしたが、社会の規範には反するけど、パートナー間で無理なら“別の相手と解消する”という考え方も存在すると思います。それに関してはどうでしょう?

ひうら

前に芳麗さんから教えていただいたんですが、欧米ではパートナーと同意の上で別の相手とのデートやセックスを許可する“オープンリレーションシップ”の考え方も広まっているみたいです。デートをすることはパートナーに言わないとか、反対にすべてオープンにするといった一定のルールは定めるんですよね。

芳麗

なぜか少しだけオープリレーションシップに詳しいんですけど、日本でも一部富裕層の間で広まりつつあると噂に聞きました…!

ひうら

なるほど新しいなと思いつつ、やっぱり少し欧米っぽくて日本人にはあまり受け入れられないのかなって気がするんですよね。それよりむしろ、ハルや冬実のように関係性を曖昧にするのもありだと思うんです。ルールを決めず、双方が流動的に少しずつ試していく。 オープンリレーションシップにかけるなら、「曖昧リレーションシップ」(笑)?

芳麗

たしかにセックスレスに悩むふたりが、いきなり性の話をオープンするというのもハードルが高いですよね。

ひうら

曖昧といってもネガティブな言葉ではなく、例えばさっき話したようにフィニッシュしなくてもいいんじゃない?って曖昧にしつつ、関係性を保ったまま深めていくような方法もあるのかなって思います。例えば冬実の場合、自分はいつ終わってもいいと思っている浮気相手の本気モードを交わしながら、のらりくらりとしているじゃないですか。

芳麗

人間関係には本来ルールがないし、社会の規範って基本的には疑っていいと思うんです。ただ、パートナーに嘘をつき続けると自分も辛くなってしまう。曖昧な関係性の場合、どうやったら嘘をつかずにいられるんだろう。

ひうら

嘘をつくにしてもすごく後ろめたい時と、相手のためにもここは嘘をついてもいいっていうタイミングがありますよね。だからそれも自分基準で考えた上で、曖昧にするところは曖昧にしてもいいんじゃないかなと思うんです。

紫原

まずは自分が何を求めているかを因数分解してみるといいのかもしれない。女性は感情の解像度が高いから、寂しいといった自分の気持ちをすぐに理解できるじゃないですか。それと同じようにセックスしたい理由や、相手と一緒にいたい理由を自覚しないとですよね。

芳麗

欲望を因数分解していくって本当に大事なことですよね。一口に性欲といっても、中身は人それぞれ違うわけだし。

紫原

セックスしたい!と思う瞬間って、本当にしたいときもあれば、日常に刺激がなくて退屈している時だったり、仕事が停滞している時だったりするんですよね。そう思うと、案外性欲や寂しさって相手じゃなく自分の問題なのかも。だからこそ自分と相手の気持ちと向き合わなきゃいけないし、向き合ってくれない相手とパートナーシップを組み続けるのはつらいと思う。

芳麗

その結果、オープンリレーションシップもありかもしれないし(笑)。恋人時代から結婚後にどんな関係を作っていきたいかを話し合う必要がありますよね。信頼関係が構築されていないと、いざセックスレスになった時に話し合おうとしても難しいじゃない?だから明子ちゃんが言ったように、まずは自分がどんな欲望を持っているかを分析するといいかも。

紫原

ただ、一般的に男性のほうが、自分の欲望や感情を理解する解像度が女性に比べると低いと思うんですよ。むしろ無にしている感じもあって、例えば人肌恋しいという気持ちもすべて性欲として片付けちゃうところないですか? 特定の人との関係の構築における性欲の解消じゃなくて、ただの性欲として大味で解消できてしまうんですよね。だから基本的には気持ちの深掘りをおすすめするけど、いっそ逆に相手と同じだけ解像度を下げちゃうのもありなのかな。

ひうら

男性の雑さに救われることもありますしね。

芳麗

深掘りした結果たどり着くのは離婚の二文字かもしれないし、その先に幸せがあるとは限らないから解像度を下げる方がむしろ幸せなこともあるかもね。心を鈍化させていくのは苦しいけど。

紫原

見えていたものを見えていないふりをすると、いつか歪みが生じる気もするけど、多くの人はそのやり方を取っている気もしますね。

触れられることで気づくこと

紫原

だけどやっぱり日本人である私たちにとって、セックスってかなり重要な側面を担っているなと思います。日本は“触らない文化”だから、セックス以外で誰かに触れる機会って実はほとんどないんですよ。

ひうら

コロナ禍ではますますですよね。

紫原

先ほどまで伊藤亜紗さんの『手の倫理』という本を読んでいたんですが、そこに触覚は肉体を持って“あなたがここにいる”ということを感じさせてくれると書いてあったんです。それ以外の視覚・聴覚といった感覚より強くそう思わせてくれる、と。そう思うと、セックスしなくなるというのは、自分の所在をたしかめる手段がなくなるってことなのかも。

ひうら

“触れられる”ってたしかに大事。最近友人の女性が離婚したんですけど、彼女は実家で子供を見てもらえるようになって出会い系アプリでしばらく遊んでいたんです。その子が「今までは自分が子供を抱っこしていたけど、自分より大きい人にハグされた時にすごく守られている感じがした」と言っていて。それが原因なのかはわからないけど、しばらく見ないうちにすごく存在感が綺麗になっていたんですよ。気持ちを深掘りするのもいいけど、セックスして初めて心に空いた穴がどんな形だったか気づくこともあるんじゃないかな。

芳麗

セックスだけに限らず、抱きしめられたい…みたいなフィジカルな欲望は消えないし、大切ですよね。何よりそこで悩むことが肉体を持っている意味というか、人間味があるなって思います。