気心知れた友達の存在

ちなみに、どうしてわたしがあなたの立場だったら引っ越さないという選択をするのかというと、先にお話ししたように、推しに対して「活動の全てをこの目に焼きつけたい! ひとつも見逃したくない!」というほどの熱量があるわけではないという理由の他に、友達ってめちゃくちゃ大事じゃない……? とこの年齢になって再認識したから。

もちろん、昔から変わらず友達の存在には感謝していますし、今だっていろんな人と知り合って関係性をつくり、楽しい時間を過ごしてもいます。
大人になってから友達をつくるのってほんとうに難しんですよね。共通の趣味だったり、食の好みが合っていたり、なんとなく話してみたらウマが合ったり……そういった些細なきっかけで仲良くなれることは多々あると思います。
いろんな人と仲良くなるために積極的に交流していく姿勢は持っていたほうがいいと思いますし、大人になってから知り合ったとしても仲が急速に深まり一番信頼できる友達になることもあるでしょう。

ただ、そこはやっぱり大人同士。価値観や常識はすでにできあがっており、仲良くなっていく過程ではある程度探り探りの場面があったり、「ん?」と違和感を抱いたときに大人の対応をしたり、「どこまで踏み込んでいいのかな? ここまでは大丈夫かな?」と逐一確認作業を要したり……と、“大人として協調性を重んじた振る舞い”をする必要があります。
これは新たに関係性を構築していくうえでは必要不可欠なコミュニケーションですし、わたしたちは当たり前のようにやっているはず。
その過程にも、特有の楽しさがあることは理解しています。
……といっても、最初の頃はどうしたって疲れてしまいますし、無自覚ながらもストレスが溜まるもの。新しい環境であれば、尚更です。
そういうとき、昔からの気心知れた友達の存在ってとてもありがたいんですよね。
最低限の気遣いはあれど、過去の恋愛遍歴を全て知られていて、黒歴史もリアルタイムで見られていて、過去の失言を何度も見逃してもらっていて、きったねぇ格好を晒すことになんの躊躇もなくて、余裕がないときにIQをどん底まで下げても会話が成り立って、自分の人となりを熟知されていて……と、「こういうやつだから」という認識があるうえでの関係性はいちいちもどかしさを感じる暇もないため、雑な言い方をすれば楽チンだな、と。

新しい環境に身を置くとき、誰かと仲良くなっていく過程で緊張感を味わうとき、嫌なことがあって誰かに話を聞いてほしいとき、何もかもどうでもよくなってしまいそうなとき、そういう存在ってほんとうに救いになるなという実感があり、また歳を重ねて大人としての振る舞いを求められる場面が多くなるにつれて、それがより大きくなっているのです。

推し活のかたちは人それぞれであるように、友達との関係性でも同じことをいえます。
マメに連絡を取り合う関係性であれば、遠く離れていたってそれほどさみしさを感じないかもしれません。いくらでも連絡の取りようはありますしね。

とはいえ、わたしはかなり筆不精なタイプのため、どれほど仲がよくてもLINEや電話は億劫でして……。「明日ひま? 仕事帰りうちでごはん食べて行かない?」と気軽に誘ってすぐに会えるという今の環境がとても心地よいのです。

数年前、わたしも含め仲のよい友達のうち数人が地元を離れていた時期がありました。その期間も関係性は続いていましたが、久しぶりに会うとなると時間は限られていて、いざ会っても近況報告だけで終わってしまったり、わたしが参加できない集まりを知ると「行けないけど一応誘ってよ!」と冗談半分、本気半分のワガママを言ったり、どうしてもさみしかったんですよね。

人それぞれ人生がありますし、友達の人生はその人自身のものですから、これから先仕事や結婚、育児、介護など様々な事情で離れてしまう可能性が無きにしも非ずであることは、もちろんわかっています。ですが、ここ数年の、仲のよい友達がみんな近所にいるという今の生活はとても充実していて、他に代えがたいほど楽しいので、できる限り長く続いてほしいと切に願っています。もちろん、あくまでもわたしの場合は、です。

自分の性格を分析してみる

ただ、推しが友達に劣っているかというと、決してそうではないと思います。というか、そもそも比べるものではなく、完全に別枠ですよね。だからこそあなたが抱えているお悩みはとても難しいのですが……。
ここまでの流れで”友達>推し“と読めてしまったかもしれませんが、推しの存在だってわたしたちの救いになるわけです。
推しのためにしんどい仕事だって頑張れますし、クソみたいな客にもうるせー上司にもいくらでも頭を下げられます。推しの存在で心身の健康を保てているため病院いらず、さらにインフルエンサーおすすめの美容液を使わずともお肌はぷるっぷるになるのですから、推し活にかかるお金は医療費であり、美容費なわけです。推しよ!!! 生まれてきてくれてありがとう!!! 幸せに長生きしてくれ!!! と大声で感謝せずにはいられません。
そう考えたとき、推しへの愛を我慢するのってほんとうにしんどいはず。

そこで、もう少し自分の性格を分析してみてはいかがでしょうか?
相談文の中に「一度好きになるとものすごく熱くなる性格」とありますが、過去に好きになった人やもの(恋愛対象としてでも、推しとしてでも)に対して、熱しやすく冷めやすい性格なのか、それとも気が済むまでとことん追いかけ尽くさないと好きの感情が燻ったまま持続してしまう性格なのか。
もし前者であれば、1~2年の間、悔しい思いをしつつも今の場所に留まって、できる限りの推し活をして気持ちが治まるのを待ってもいいのかな、と。引っ越して途端に推しに対する熱が冷めたとなると、それにかかったお金や労力を惜しんで虚無感も大きいでしょうしね。

後者なのであれば、一度引っ越してみてもいいかもしれませんね。
好きな土地に引っ越すという選択肢があるというのは、家族や仕事などあなたを縛る制約がなにもないということ。それってかなりラッキーで、とても恵まれていることだと思います。フットワークを軽く行動できる期間って、人生では案外短いもの。たとえそれが叶う状況でも、年々腰が重くなりますしね。もちろん、何歳になったって推しを理由に好きな場所に住んでいいと思いますし、絶対にできないってことはないでしょう。ですが、転職などを考えたら今よりハードルが上がるのは確実です。

現時点でそんなラッキーを持っているということ自体が、あなたの武器です。新しくコミュニティを広げるのは苦手かもしれませんが、住めば都、という言葉があるくらいです。行ってしまいさえすればどうにでもなる、という思い切りの良さに身を任せることだって、人生で一度くらいやってみてもいいのではないでしょうか。