春画のなかのうでまくら

春画 絵師不詳 欠題組物

今回のコラムの中ですでにいくつか紹介しているが、江戸期の春画にも相手に『うでまくら』をしている場面がある。そして江戸期も『手枕(たまくら)』と呼ばれていた。

奈良時代には女性にしてもらう腕枕に価値を感じていた可能性があるが、時代とともに平安時代には「手枕は男性が女性にしてあげるもの」という認識が広まりつつあったのではという話をした。そして江戸期の春画でも、やはり手枕は男性が腕を出す表現が多いようだ。

少し話は横にそれるのだが、みなさんご存知の「かわいい」ということばがある。このことばは江戸期にも使用されており、女性が男性に使用することが圧倒的に多かった。
注意してほしいのが江戸期に使用されたこの語は、「容姿がかわいらしい」という意味ではなく(もちろんその使い方が全くないとは言えないが。)「あなたに心底惚れこんで愛おしく、じれったい」という意味合いに近かったように思われる。

この惚れこんで「かわいい」相手と交わっている場面を表現したいときに、女性が男性に手枕をしている場合がある。

たとえばこの2枚。

春画 渓斎英泉《あづまひな形(あづまひながた)》1839年
春画 歌川国貞《春色初音之六女(しゅんしょくはつねのうめ)》1842年

1枚目は相手を抱き寄せているだけのようにも見えるのだが、腕をまわしているので紹介させてもらった。2枚目でも女性が腕をまわし、自ら自分の股へと男根を導いている。

春画 歌川国芳《吾妻文庫(あづまぶんこ)》1838年

前回のコラム「私の奥まで来て!もう毎日来場して!「だいしゅきホールド」は古くからある」の記事の中で「袋入れ」という体位を紹介したのだが、この「好きな相手を包み込みたい、もっと大切にしたい」という感情は手枕にも通ずる部分があるように感じる。

なぜなら春画の中のカップルたちは、手枕をしている側も、されている側もとても幸せそうなのだ。「うでまくらは腕がしびれるし、寝づらい」という現実的な意見もあるだろうが、万葉集ができた時代より「手枕」には相手と抱き合う(≒セックス)の意味合いもあったため、幸せなラブラブのイメージがくっついてくるのだ。

ちなみに昭和期の1953年の出版物《夫婦生活》家庭社4月号の「妻が夫にして欲しい技巧25手」では「逞しいあなたの腕枕、男ッて、男ッてほんとにいいものね」と、男性の腕に抱かれたいという内容の記述があり、この時期には「手枕(たまくら)」ではなく「腕枕(うでまくら)」という表現が使用されていたこともわかった。