ひざまくらはお金を払ってでもしてほしい?

春画 石川豊信 欠題組物

お待ちかね、ここからは少しだけ膝枕についてお伝えしよう。

菱川師宣の《恋のむつごと四十八手》(1679年)で【君膝枕(きみのひざまくら)】という体位が紹介されている。その体位の解説には

世の世話にさへ、ひざまくらは買ふてもせよといふに、是はまたわが思ふ君のひざのまどろみなれば、つぶりも身につかぬ心ちやせん

(意味)
世のことわざにも、ひざまくらは買ってでもせよというのに、あなたのひざのまどろみならば、頭が身体につかない心地がするほどに気持ちが良い

とある。好きな相手のひざは格別に夢心地だと言う。春画の中にも膝枕が描かれている絵をいくつか発見した。

春画 菱川師宣《絵本雑書枕(えほんざっしょまくら)》1678年

髪を結ってもらっている女性が若衆に膝枕をしている光景だが、若衆の顔をみるとまさに頭が身体につかないほどの夢心地といったところだろうか。

しかもコタツで身体を温めているのだから身も心もホカホカで、見ているこちらまで身体が温まりそうな光景だ。

春画 菱川師宣《絵本雑書枕(えほんざっしょまくら)》1678年

上の絵のように女性が男性のお膝で眠る春画もある。この男女は今ここでどんなことを考えているのだろうか。

「春画ってセックスの絵のことじゃないの?」という方のために、私は「春画は性の営みを描いた風俗画なので、生命を感じたり、誰かの人生を表現している場面も該当する」と広く説明するようにしている。なので今回ご紹介したように、春画本の中には腕枕や膝枕をしてまどろんでリラックスしている光景も描かれているのだ。膝枕や腕枕が性愛表現として古来より使用され続けていることがわかる。

「好きなあの人の手枕が触れた髪だから、櫛でとかしたくない」や「ずっとあの人の手枕の中で眠っていたい」という奈良時代の歌の中の気持ちは現代でも共感できる部分がある。そして「うでまくら」は男性がする傾向、「ひざまくら」は女性がする傾向は時代がくだるとともに定着していったようだ。ちなみにTwitterで腕枕を検索すると愛猫や愛犬に腕枕をしている光景もあり、「腕枕は愛おしい時間」というイメージだけは変わらないと感じた。

ついつい性別で所作や言動を分けて考えてしまいがちだが、そこには脈々とつづく社会的背景や文化的な背景があり、「腕枕」や「膝枕」を調べることで無意識に固まっていた概念がゆっくりほぐれていく感覚になった。

《参考文献》
古代文学会「古代文学47 手枕・・万葉から和泉式部まで 久富木原玲」
国語国文56 京都大学文学部国語学国文研究室編 万葉「手枕」考 下西善三郎
白倉敬彦「春画の色恋」

Text/春画―ル