夫が誕生日にリクエストしたレストラン

というわけで、昭和世代のNO.1ごちそう食材・牛肉が封じられてしまった今年の誕生日はどうすれば……と、ここまで読んでくださった皆さん、ごちそうディナーといえばフレンチやイタリアンがあるじゃない! と思うかもしれません。そうなんです。フレンチやイタリアンは美味しい上に、お店の雰囲気もよくて“トキメキ”。けれど、祝われる張本人が、その雰囲気をヨシとするかという問題があるのです。

もっと噛み砕いていうと、夫はナイフとフォークで食べるようなコース料理(が出てくる雰囲気の店)があまり好きじゃない。新婚旅行で訪れたローマで、地元のちょっとシャレたお店に入ったときには、「隣の席のテーブルの客が、こっちを見てバカにしてる……」と被害妄想を爆発させていたくらいです。なので、わたしにとってフレンチやイタリアンは「女友達と楽しむ店」というボックスに入れてあるし、頑張って開拓をしたとっておきの店に連れて行って「美味しいけど、俺は微妙だな~」なんて言われでもしたら、気分が悪くなるので、選択肢からは除外してあるのです。

和牛がダメ、フレンチやイタリアンのコース料理もダメ。だとすると蟹? 寿司? 鰻?いっそすっぽん? 火鍋? シュラスコ? こういうときは本人に聞くのが一番の近道。「誕生日に何か奢るけど、何が食べたい?」そう尋ねて返ってきたのは、「だったら、死んだオヤジが、よく家族で連れて行ってくれた某中華レストランに行きたい」という答えでした。中華であれば子連れでも問題ないはずだし、都合のいいことに、我が家からそれほど離れていない場所にその支店もある、とあっさり解決。

今年は「死んだオヤジに連れていってもらった店に、自分の息子を連れていく」という夫のロマンのお陰で、よき誕生日が過ごせました。しかし手札を出し尽くしたことには変わりはない。来年はどうするか。もちろん、子どももいることだし、ゆっくり家で手作りのご馳走で祝うという手もあるけれど、できれば「お互いの誕生日は外食する」という習慣を持ちつづけていたい。だって、それは夫婦で過ごす日常では、なかなか難しい “トキメキ”を補充するせっかくの機会。それを、手放したくはないと思うのです。とにもかくにも、世界が落ち着いて、安心して外食できる日々が早く戻ってきますように。

Text/大泉りか