
AMが生まれたのは2012年2月14日。そして、私が東京大学に入学したのが2012年4月1日のことである。短歌サークルに入った結果、AMの連載とは意識していなかったものの、佐々木あららの「短歌で祓え!怨霊ラブメモリー」に投稿が採用されたりしていた。あの頃も「短歌がブームだ」と言われていたが、昨今の盛り上がりほどではない。
その後、女性向けアダルトビデオについて卒業論文を書いたことで、AM編集部の方々の目に留まり、2016年4月から2017年4月までの1年間、「東大院生のポルノグラフィ研究ノート」を隔週連載していた。もう10年前になるのか。
卒論をさっき出したばかりの若造に1年間連載できるほど知識があるわけもなく、ひいひい言いながら文章修業することになった。大変だったが、AMで連載していなければ女性向けAV視聴者に信頼してもらえることは少なかっただろうから、インタビュー調査をもとに修士論文を書くことは叶わなかったかもしれない。
結局、2023年3月、29歳まで学生を続け、博士論文も女性向けAVについて書いた。そして今年の4月、ありがたいことに、ついに任期なしの大学教員として就職を果たした。
つまり何が言いたいかというと、AMと私の研究歴は、ほとんどぴったりと同時代的なのである。
ゆえに、AMを取り囲む日本の「性」の変化は、私にとっても十分に手触りをもって感じられる。
「マッチングアプリ」もなかった、あの頃
大学1年生の前期にジェンダー論の授業を受けるまで、私は「LGBT」という言葉を聞いたことがなかった。私が特別に不勉強だったというわけではなかったと思う。
その後、2015年には東京都渋谷区で同性カップルへのパートナーシップ証明書の交付が開始された。2019年から「結婚の自由をすべての人に」訴訟が進められ、高裁判決のうち6件中5件が、同性婚を認めない現行制度を違憲としている。
TinderもPairsも2012年下半期リリースだから、あの頃「マッチングアプリ」はなく、「出会い系」しかなかった。
しかし今や、39歳以下で直近5年以内に結婚した人のうち、約4人に1人がマッチングアプリで出会っているという調査結果もある(こども家庭庁2024年7月調査)。およそ5年に1度行われる「出生動向基本調査」は、2021年の第16回で初めて、夫と妻が知り合ったきっかけの選択肢に「ネットで」を追加した。
女性向けのアダルト分野にも変化が
日本の女性向けAVメーカーの草分け的存在である「SILK LABO」が第1作を発売したのは2009年のことだが、「エロメン」の一徹と月野帯人が専属契約を結んだのは2012年12月のことである。私が初めてTSUTAYAで女性向けAVを借りたのは、2014年の12月24日のことだ(せっかくの日に何をしているんだ)。
あの頃、「FANZA」はまだ「DMM.R18」だったし、DLsiteの「がるまに」は「Girls Maniax」だった。コンビニにはまだエロ本が売られていた。SILK LABOと同じくソフト・オン・デマンドグループに属する女性向けアダルト動画サイト・GIRL’S CHは、2013年1月に設立され、そして2023年11月に閉鎖した。
株式会社TENGAが女性向けブランド「iroha」をスタートしたのは2013年3月3日である。ラブピースクラブによれば、吸引型のアダルトグッズ「ウーマナイザー」が発売されたのは2014年であり、2016年Pro40シリーズあたりから洗練されてきたという。
女性用風俗の歴史は意外と古いようなのだが、しかし現況ほどの発展は、2017年にオープンした「東京秘密基地」や「萬天堂」の影響だろう。
フェミニズムも新たな波を迎えて
「MeToo」というスローガンは実は2006年にすでにあったのだが、ハッシュタグ「#MeToo」が一大ムーブメントとなったのは、2017年にハリウッドの映画監督によるハラスメントが告発されたことがきっかけである。
SNSによるオンライン活動を特徴とする女性運動は「第4波フェミニズム」と呼び分けられることもある。AMが運営を続けているうちに、フェミニズムは新たな波を迎えたのだ。
雨宮まみがいた。そして、福田フクスケが、はあちゅうが、大泉りかが、オリビアが、アルテイシアが、菊地美佳子が、谷口菜津子が、ジェーン・スーが、ファーレンハイトが、BETSYが、山田玲司が、下田美咲が、姫乃たまが、トイアンナが、肉乃小路ニクヨが、紫原明子が、舘そらみが、にくまん子が、長井短が、妹尾ユウカが、戦慄かなのが、ものすごい愛が、カレー沢薫が、元鈴木さんが、中川淳一郎が、いる。
AMはずっと、この歴史とともにあった。願わくば、この先も見届けてほしかったが、ウェブメディアがいよいよ斜陽のなか、大往生と言ってもよいかもしれない。
歴史は続く。かつてAM読者、AMライター、AM編集部だった人々の人生も続いていくのだ。
Text/服部恵典