「ナンパは加害」とも言うけれど、今を楽しむナンパはそう悪くもない

マスク生活も三巡目に入り、すっかり慣れた今日この頃ですが、先日「マジか!」という出来事がありました。ちょっとした用事があって単身、夜の街を歩いていたところ、男性に「いま、暇だったりします?」と声を掛けられたのです。

路上でナンパされることも珍しくなかった10代。声を掛けられる回数が目に見えて減っていき、やがて声を掛けてくるのはキャバクラなど水商売のスカウトがメインとなった20代。「儲かる仕事あるけど」という、なんだかわからないリクルートばかりの30代。新宿駅から東宝シネマズまで、一度も立ち止まることなく辿りつけるようになった40代。声を掛けられるのがウザいからといって、歌舞伎町を歩くときは携帯電話を耳にかざして、誰かと話している風を装って歩いたあの日も、今では懐かしい想い出です……想い出です……想い出……のはずだったのに、「いま、暇だったりします?」だと。幼児持ちのワーママに暇があると思ってんのかバカ野郎! なんの用事だ。アンケートだと言って立ち止まらせて無料エステ体験で釣り、最後は高額コースを組ませるやつか、それとも「あなたの幸せ、祈らせてください」って手をかざしてくるやつか(古い)!!!

と臨戦態勢で臨んだところ、「待ち合わせをすっぽかされてしまって、よかったら一緒に飲みません?」というではないですか。ひょっとして、これナンパ? と驚くと同時に、「あ、マスク!」と思い当たりました。マスクをして目元しか見えていない状態ゆえに、まさか40代の子持ち女とは思わずに声を掛けたのではないか。

なので、あまり顔を見られないように「あっ、すみません、ちょっと用事あるので……」と、そそくさとその場を後にしたのでした。ナンパ男たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げしていた、かつての自分が遥か遠い。

ナンパは加害と言う人もいるけど

最近では「ナンパは加害」なんて言われているし、確かにその渦中にいるときはウザいこともありました。けれども、「HEY! YO! イマカラアソバナイ?」とラップで声を掛けてきたラッパーに、ラップで応じようと思ったものの、やっぱり咄嗟にはリリックが出て来ずになんとなくしらけた雰囲気が流れたことや、クラブの大爆音の中で、いきなり「僕と結婚してくれませんか!」と話しかけてきたチャラい男子に「マジで結婚すんだな?」と凄み返しつつ乾杯したこと、マレーシアのカフェで日本語で話しかけてきた現地の男性に「アニョハセヨー!」などとテキトーな韓国語で返したところ、すごすごと退散したと思ったら、「ヒーキャンスピークコリアン!」と韓国人の男性を連れて戻ってきたこととか、いま思い出せば、そこそこ楽しかった記憶もある。

あからさまにセックスだけが目的のナンパはさておいて、公園で遊んでいる見知らぬ子ども同士が、なんとなく仲良くなって、ひと時を共に遊ぶような、「いまこの瞬間を一緒に遊ぼう」というナンパは、そう悪くはないものではないかと思うのです。

Text/大泉りか