「あの『アトワム』のCMのカワイ子ちゃんも、やっぱり女なんだねえ。発情のフェロモンがぷんぷん漂ってくる」
 実羽は泣き出してしまいそうだった。これほどの恥辱にまみれるくらいなら、お金も仕事も愛する男も失ってしまってかまわない。本気でそう思った。体にからみついてくる平松を振りほどけなかったのは、単純に力で敵わなかったからだ。あるいは、この愚劣な営みを続けようとする平松の意思が、行為を中断したいという実羽の意思よりずっと強かったからだ。

 指がシーツの中に入ってくる。いやいやと身をよじる女を手なずけようと、的確に性感のポイントを探り当ててくる。繊毛を掻き分けて、肉の合わせ目にある女の急所をいじりたててくる。

 実羽の神経もまた、次第にそこに集中していった。快感がそうさせたのではない。この恥辱から逃れるためなら、愉悦に溺れて正気を失ってしまったほうがまだいい、と思ったからである。 (『夜ひらく』P157 L6-P158 L2)

 こうして自分を売り渡した実羽は、平松の手を借り、やがてスターダムへとのし上がっていきます。
と、同時に、熟練したテクニックを持つ平松により開発され、ウブだった肉体も淫らに開花。
愛などなくてもセックスで感じ、絶頂に達することを知った実羽。
心を裏切った肉体を追いかけるように、その精神もまた変化を遂げていきます。

 愛のないセックスを行うのは人間ではない。けだものだ。
あるいは、ただ欲情に駆られたマシーンだ。ならば、と実羽は思った。
もう我慢している必要はない。欲望の翼をひろげ、思うがままに振る舞ってしまえばいい。
実羽は平松のものを舐めるのをやめ、上体を起こした。
「おい、どうした」
虚を突かれている野崎に抱きつき、押し倒してしまう。
「わたし、もう我慢できません」

 長い黒髪を振り乱して、でっぷり太った野崎にまたがっていく。和式トイレにしゃがむ要領で両足をM字に開き、そそり勃つ肉塊を女の花にあてがった。先ほどのフェラチオで塗り付けた唾液はとっくに乾いていたけれど、問題はなかった。実羽のほうが、濡れすぎるほど濡れている。 (『夜ひらく』P206 L9-P207 L6)

 しかし、よくよく考えてみれば、『女を売った』後に感じるのは、後ろめたさだけではありませんでした。
自らの体を自由に使えるという解放感や、自分の強さへの恍惚といった、一種の快感を覚えることもあるのです。
それを知ったことが、わたしが『女を売った』ことで手に入れたものかもしれません。
では、本書のヒロイン実羽は『女を売って』何を手に入れたのか……は、本編でお楽しみくださいませ。

夜ひらく 祥伝社文庫 草凪優 大泉りか

書名:『夜ひらく
著者: 草凪優
発行: 祥伝社文庫 
価格:670円

 次回は、美男と醜女を繋ぐ、金とセックス『そして僕は途方に暮れる』をお届けします。

Text/大泉りか

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