「女を売る」ことで得たもの?『夜ひらく』(後編)

 前編に続き、『夜ひらく』のヒロイン・実羽の魅力に迫ります。

【大泉りか・官能小説から読み解く、ファムファタールのススメ】
第8回:草凪優・著『夜ひらく』(後編)

夜ひらく 祥伝社文庫 草凪優 大泉りか 大泉りか jorgemejia

 つい先日、週刊文春の『女が嫌いな女』という企画で、ペニオク詐欺に加担した某グラビアアイドルについて、コメントを求められました。

「年齢詐称、デキ婚だったことを隠したりと、嘘だらけ。おそらくおっぱいも偽。あげく詐欺だなんて許せん!」
という世間の声を代弁したのですが、はて。
本当にわたしはこの女に騙されていたことを怒っているのでしょうか。

 答えは否です。
ただなんとなく腹だたしい存在であると思っていたところに、叩くための正義が見つかった、
というのが正しいところ。
そして、おそらくはわたしだけではなく、世間様もまた同じなのではないかと……思います。

 では、なぜ彼女を見ていると腹がたつのかというと、
それはやはり『女を売りにしている』ところがあけすけだからでしょう。
『女を売りにしていること』がバレバレなのに、ちやほやされているのが気に食わなかったということです。

 が、しかし。一方で、わたし自身『女を売り』にしたことがないか、というとそれもまたないとは言えません。
権力者を目の前にして、盛った胸の谷間を見せつけたり、きゃぴった声で腕を組んだり、カラオケで腰に手をまわされながらデュエットしたり……と仕事や人間関係をスムーズに進めるため、
また、何かしらの欲しいものを得るために、女を売ったことはいくらでもあります。
そんな後ろめたさが、わたしを引き裂き、『女を売りにしてるくせに、それがバレてないと信じて堂々としている女』に対して苛立ちを覚えるのです。

 『夜ひらく』(草凪優著:祥伝社文庫)のヒロイン実羽もまた、『女を売る』ことを与儀なくされます。
一発逆転のチャンスである老舗ファッション誌『リッシュ』の専属モデルオーディションに着ていく服を探しに立ち寄った青山の街で、実羽は新進の事業家・平松と出会い、そして、オーディションに着ていく服と交換に、自らの体を与えることとなるのです。