「ラブラブエッチ化」の仕組み

『世田谷区……』は前半約7割が、主人公である結衣の周辺に仕掛けられた盗撮カメラからの映像で構成される。
図1は「GIRL’S CH」の動画でも使用されているシーンの抜粋だが、画像の四隅に影があるのは、設置されたカメラを隠す覆いを表現したものである。

東大院生のポルノグラフィ研究ノート 服部恵典 東大 院生 東大院生 ポルノグラフィ 研究 (図1)

カメラを仕掛けた何者かによる意味深なテロップが時々挿入されつつ、結衣の入浴やベッドでの自慰、腋毛の処理、職場での彼氏との密会、トイレ、自宅での彼氏とのセックス、職場での上司への性的奉仕などの盗撮が続く。
そして、その何者かによって上司との関係が画像付きメールで社内中にバラされ、彼氏と破局する。女友達が慰めてくれるのだが、何とこの女友達は盗撮カメラと目が合うのだ。

その後、女友達による結衣への報復なのか、黒ずくめの男たち3人が部屋に侵入し、輪姦を始める。このとき、2人で結衣を犯すのを1人が撮影する画面が中心になる(フジテレビドラマ「eveのすべて」を髣髴とさせる脚本と演出だ。ここまでストーリーに力をいれたAVは今どき珍しい)。

タイトルが示す通り、作品のメインは後半なのだが、彼氏とのセックスだけが抜き取られることで、作品は解毒されていたのだ。これが「ラブラブエッチ化」の仕組みである。

実は、「これまでの再生数ランキング」3位の「彼氏とのエッチで何度もイッちゃう女の子」も、元は『北川美緒 完全盗撮 奪われた日常と狙われた美人弁護士』という盗撮もので、『世田谷区……』と同じ監督の作品である。

同様に後半は輪姦なのだが、最終シーン、美緒をレイプした黒ずくめの男たちが去った後に助けに来た彼氏は、美緒を慰めつつも盗撮カメラと視線が交差する(図2)。

東大院生のポルノグラフィ研究ノート 服部恵典 東大 院生 東大院生 ポルノグラフィ 研究 (図2)

盗撮カメラの存在に気付いているこの彼氏こそ盗撮カメラを仕掛けた張本人であり、弁護士の主人公に恨みを持つがゆえに、彼氏になるふりをして陰惨な復讐をしたのだった、というストーリーなのだ。
つまり、男は美緒のことを全く愛してなどいなかった、というオチがつくのだが、編集によって「ラブラブエッチ」へと姿を変えているのである。

ただまあ、結論が「女性はラブラブエッチが好き」というだけではひどく常識的というか、そりゃあそうだろうね、という感じがするだろう(もちろん、「レイプもののAVが好き」という女性も少なくないのは当然だ。私が試みているのは「嗜好は様々だよね」という究極的な解答に安易に陥らずに、どうにか傾向をつかまえようと足掻くことなのだ)。

私がそれでもなおこの動画を重要視しているのは、単に輪姦レイプがラブラブエッチになっているだけでなく、ラブラブエッチが盗撮カメラで撮られているからである。