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  • 2017.05.26

女性向けアダルトVRは売れるのか――SILK LABOが撮ってこなかったもう1つの眼差し

女性向けAVメーカーのSILK LABOが、人気エロメンの有馬芳彦さん主演で女性向けアダルトVR(ヴァーチャル・リアリティ)を4月に販売しました!服部恵典さんが実際に体験して、その感想を綴ります。これまで理由があって女性主観を撮ってこなかったのにVRを作ったのはなぜなのか?そして女性向けVRは売れるのか?

女性向けアダルトVRの登場

VR(ヴァーチャル・リアリティ)ゴーグルを装着する女性の画像
by Olabi Makerspace

 4月26日、女性向けAVメーカーのSILK LABOが、女性向けのアダルトVR作品『【VR】朝からカレに求められて…♡ 有馬芳彦 「人気エロメン有馬芳彦がアナタの耳に甘い声で囁きながら優しいエッチで起こしてくれるVR」』を発売した。

「人気エロメン有馬芳彦がアナタの耳に甘い声で囁きながら優しいエッチで起こしてくれるVR」のパッケージ画像
©『【VR】朝からカレに求められて…♡ 有馬芳彦 「人気エロメン有馬芳彦がアナタの耳に甘い声で囁きながら優しいエッチで起こしてくれるVR」』

 VRとは「ヴァーチャル・リアリティ」(仮想現実)の略。専用のゴーグルを装着すれば、あたかも目の前に男優がいるかのように立体的な映像が観られるのだ。
SILK LABOからお誘いを受けたので、AM編集部の方と体験しに行ってみた。今回はその率直な感想を綴ることにしたい。

SILK LABOには少なかった「女性主観」

 まず、SILK LABOに行って話を伺うまで、日本では女性向けVRなんてしばらく作られないし、売れないだろうと思っていた。なぜなら、SILK LABOはVRのような主観映像を少なめにしてAVを撮ってきたからだ。
これは、
第1回:AV女優がもつカメラは何を映すか?男女間の不均衡な眼差し
第2回:盗撮カメラとラブラブエッチ――AVを女性向けに編集するとはどういうことか?
第9回:「女性のエロスイッチは視覚ではない」は本当か?――ポルノの男女比較、日米比較
第13回:『シン・ゴジラ』とAVのリアリティ――男優のカメラ目線に萎える女性たち
と、何度も論じているテーマであるが、改めてここで説明しよう。

 男性向けAVは、男優の目の位置とカメラの位置を近づけて「男性主観」で撮られた、男-女を手前-奥に配置する「奥行き」の画面構成を特徴として指摘できる。一方で、女性向けAVは男-女が右-左や、上-下(またはその逆)の関係で置かれる「広がり」の画面構成がとられる。多くのシーンではカップル2人を同時に映し、カメラはセックスに関係ない第三者的な立ち位置に存在するのである。

 SILK LABOの作品は、なぜ「女性主観」で男優と目が合うような作品が少ないのか。その理由についてプロデューサーの牧野江里はインタビューで以下のように話している。

 けっこう女は『この人、撮影現場でカメラに向かってこんなこと囁いてたわけ?』とか冷静に考えて冷めちゃうんじゃないかと思えてきて、男中心にではなくシチュエーション全体を見せる自然な撮影を心がけました。
「特集『女性向けAVの現在形』:アダルトレーベル『SILK LABO』プロデューサー・牧野江里 インタビュー」、太字引用者)

 では、女性主観映像をあまり撮ってこなかったSILK LABOが、なぜVR作品を撮ったのか。

女性向けアダルトVRが作られた理由

 SILK LABOがVR作品を撮った経緯を、イトウミナミ監督とアシスタント・プロデューサーに聞いたところ、まずきっかけは洋モノの女性向けVRを観たことだったという(先述の「『女性のエロスイッチは視覚ではない』は本当か?」をお読みいただければわかるように、欧米で女性向けVRが作られていることは、別に私の分析と矛盾はない)。
いわく、そのVR作品に出ていた男優はゴリゴリにマッチョで全然好みのタイプではなく、試しに観てみただけだったのだが、とにかく実際にセックスしている感覚が強く、観終わったときには男優のことをちょっと好きになってしまうほどだったそうだ。

 じゃあ1本撮ってみるか、と作られたのが、最初に述べた『朝からカレに求められて…♡ 有馬芳彦』である。
ただし、日本初の女性向けアダルトVRは、AVメーカーk.m.pの『【女性向けVR】飛び出るイケメン!!女性にも癒しを!!』(4月11日発売)であるようだ。だが、イトウ監督いわく、前戯で終わらせず実際にハメたのはうちが最初、だそうである。

 そしてSILK LABOのお二人は、観て、作ったうえで、「むしろ女性向けのほうがアダルトVRに向いている」と述べた。上述の理由から私は耳を疑ったわけだが、聞いてみれば、その話は非常に納得がいくものだった。

 アダルトVRは、まだ技術的な問題があり、あまり激しい動きが取れない。そのため視聴者と同調する女優/男優は、セックスの主導権を相手にゆだねてあまり動かずにいる、いわゆる「マグロ」であることを要求される。したがって、たとえば入院中にエッチな看護師に襲われるとか、「マグロ」でもOKな設定づくりがアダルトVRには求められるわけだ。

 だが、セックスに対して受身であることが男性よりも自然であると社会的に構築されている女性は(その是非は別にして)、「マグロ」である理由付けが特別要らないのである。
これはかなり目から鱗だった。まあ私がなぜこのことを思いつかなかったのか考えてみれば、私がふだん、男性主観で乳首舐め手コキされる、「マグロ」っぽいシーンでばかり抜いているからなのだけれども。だから、こちらから攻めたいという男女はVRにまだ不満を抱くかもしれない。

 なお、バイノーラル録音といって、人間の頭部の音響効果を再現するダミーヘッド・マイクで録音されている点も重要だ。有馬芳彦が自分の耳元で囁いているかのような感覚を得られる。
SILK LABOのお二人の話では、「本当に没入すると、有馬くんの温かさまで感じる」とのことだった。人体とは不思議なものだ。

 それから面白いのは、自分があたかも女優の身体を手に入れたかのような錯覚を得られる点である。かなり巨乳の女優が起用されていたので、自分があたかも巨乳になったかのような気分になれる。
視聴者の体の動きに合わせて画面の女優も動いてくれるようなハイテクノロジーは搭載されていないが(同調するのは顔の向きだけ)、逆に女優の動きを真似しながら視聴することはできる。おすすめである。

女性向けアダルトVRは売れるのか?

 私は一度、「『VRはアダルト業界が育てる』なんて期待はほどほどなほうがいいぞ」という思いもこめて「VHSの普及は、本当にAVのおかげ?――ビデオとエロの結びつきとAV前史」を書いている。
体験してやはり思ったが、現時点のアダルトVRには弱点もないではない。VRは配信環境や再生機器(スマホやゴーグル)のスペックによって画質にバラつきが出るそうだ。たとえばゴーグルは数百円から数万円まで幅があるが、相当な準備がないかぎりは高画質を担保できないのである。ゴーグルを外した瞬間に「現実世界ってなんて美しいんだろう……!」と思う程度には、VR空間はぼやけている(ある意味、この瞬間がVRの醍醐味ではないかとすら思った)。この点ではまだまだDVDやストリーミング配信が勝っているだろう。

 しかし、DMM.R18のAVを「人気順」「売上げ本数順」に並び替えてみると、意外とVR作品も上位に食い込んでいる(ただし「人気」「売上げ本数」の基準は累積的なものではなく瞬間的なものであると思われる)。私が過去に予想していたよりは、男性向けアダルトVRは世間に浸透しつつあるようだ。

 この連載の第1回で、私は最後に、女性向けAV研究は「こんなん見たことないわ」の連続だ、と書いた。女性向けVRは、久々に私に「こんなん見たことないわ」を体験させ、視覚を拡張した感覚がある。
少しでも気になったなら、フットワーク軽く、試してみる価値があるだろう。体験したAM編集部の1人は、その日のうちにゴーグルを買ったようである。

Text/服部恵典

次回は <「私たち」はAVを卒業できない――「AVは男のもの」が通用しなくなった時代に>です。
嵐山みちる、麒麟、タイガー小堺、沢庵、真咲南朋(敬称略)の有名AV監督5名によるトークイベント「僕たちはAVを卒業できない」。服部恵典さんがこのイベントタイトルから、AVを研究する意味と、女性もAVを観るようになった時代について考えます。

ライタープロフィール

服部恵典
東京大学大学院修士課程。同大学卒業論文では、女性向けアダルト動画について社会学的に論じる。
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