相性が悪い「夫の怒り方」

ゲームシナリオのためのクトゥルー神話事典 知っておきたい邪神・禁書・お約束110 (NEXT CREATOR)

意外な展開である。夫は別に店員に高圧的な人というわけではない。それも理由は「オーダーを忘れられた」という良くあることだ。
確かにその店でオーダーを忘れられるのは二回目だし、「あれどこやった?」という店員同士のやりとりが丸聞こえで、他のテーブルに持っていってしまったのは明らかだったのに、店員の釈明が「オーダー取る機械の電池が切れてました」だった(一緒に頼んだものはきてたので、それはないと思われる)のが勘に触ったのかもしれない。

それにしても、私が見た夫史上、最大にキレている。
何故ここまで怒っているのか。考えられる理由はただ一つ「私の“怒られませんように”という祈りが通じ、邪神が夫の怒り玉を別の場所に被弾させた」だ。

私のせいだった。
このバイト店員は犠牲になったのだ。
だったら仕方がない。すまないが私の代わりに怒られてくれ、と店員の怒られに対し静観をキメることにした。
もちろんキレたといっても恫喝したり、土下座させたりというわけではない。

まず夫は言った。「その機械はなんのためにあるのか?」と。

私は「ヒュー…」となった。
夫の怒りは「質問型」であると判明したからだ。私のような怒られたとき「思考停止だんまり型」と最高に相性が悪い。
「言いたいことを一方的に言って自己完結型」とならまだ戦えるが、質問型は相手が答えるまで質問し続けるし、沈黙を貫く(思考停止していて言葉がでない)と相手への怒りが倍プッシュする可能性が高い。

対しバイト店員は「オーダーを取るためです」と答えていた。強い。
夫はその後、もしこちらが言わなかったら、物はきてないのに、代金だけ請求されたかもしれないでしょう、そんなことがあったらダメではないかと、少し強い語気で言って店員を解放した。時間にしたら3分ぐらいだし、まあ普通のクレームなのだが、それがいつか自分に落ちる可能性があると考えたら13時間ぐらいに感じた。

しかし、その後も夫が不機嫌だったかというと、店員を解放した時点で「この物語は完結した」という感じで普通だったし、会計段階で責任者が謝罪してきた時も、追い怒り、なんてこともなかった。

怒りに持久力がない。

よって怒られたときは、詰問に対し変な答弁をするのではなく、無言、またはただ謝罪を繰り返し、夫の「怒り切れ」を狙う持久戦がもっとも効果的と分析した。
代わりに怒られたバイト氏のためにもこの経験を実戦に生かしていきたい。

だが、怒られたとき、反省ではなく「どうやりすごすか」を考えるのが、そもそもダメだとは思う。

Text/カレー沢薫