「一人前の大人になる」とは?

「あしたは最高のはじまり」の画像 Julien PANIÉ

 大人になり切れないサミュエルはグロリアを育て、またグロリアが彼を大人にさせていく。

 サミュエルが幼少時代、父親に教えられた「恐怖を味わうことで、恐怖を知る」。それは突然“父親という責任”を背負った彼がまさに直面したものだ。
父親の教えの通り、時には「崖から飛び降りる」ことだって必要なのだろう。グロリアを助けるために地下鉄でエスカレーターの間を急降下するサミュエルは、父親の教えをやり遂げた姿なのかも知れない。

 人はそう簡単に変われない。お酒を飲めても初体験をしても、そう簡単に大人にはなれない。
でも、サミュエルは赤ん坊を預かることで大人になった。その時は不幸だと思っても、彼はかけがえのない宝物を手に入れた。
今まで費やしてきた自分の時間も犠牲にして、自分以外の誰かが幸せになることを喜べるようになった時、初めて一人前の大人になれるのかも知れない。

 サミュエルはもう一つ、グロリアに大きなウソをつき続ける。それを知る時、彼が毎日ハイテンションで明るく過ごす理由が分かり、思わず涙を誘われる。

 ゲイのベルニーのいつも前向きな愛情や、サミュエルが生業とするスタントマンの仕事風景など、様々な人間模様がテンポよく綴られる。

 これはグロリアだけでなく、サミュエルの成長記録。毎日続くと限らない“あした”を最高の形で迎えるために、サミュエルと一緒に成長することを笑って泣いて楽しみたいものだ。

ストーリー

 南フランス・コートダジュールで毎日バカンスな日々を送るサミュエル(オマール・シー)のもとに、かつて関係を持った女性クリスティン(クレマンス・ポエジー)が訪ねてくる。連れてきた赤ん坊グロリアを渡し、彼の実の娘だと言ってそのまま姿を消してしまう。

 クリスティンを探すためにロンドンに降り立ったサミュエルは、地下鉄でゲイのベルニー(アントワーヌ・ベルトラン)と出会い、彼に手助けをされて男手二つでグロリアを育てていく。

 やがて8年の月日が流れ、グロリアも大きくなってサミュエルとベルニーとともにすっかり3人家族のように過ごす彼らのもとに、クリスティンが再び現れることに――。

9月9日(土)より、角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、渋谷シネパレス他全国ロードショー

監督:ユーゴ・ジェラン
キャスト:オマール・シー、クレマンス・ポエジー、アントワーヌ・ベルトラン、グロリア・コルストン、アシュリー・ウォルターズ
配給:KADOKAWA
原題:Demain Tout Commence/2016年/フランス映画/117分
URL:『あしたは最高のはじまり』公式サイト

Text/たけうちんぐ

次回は <深く傷付かないと、それは恋愛じゃない。松本潤×有村架純×行定勲で描く正真正銘の“恋愛”映画『ナラタージュ』>です。
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