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  • 2017.09.07

「地球を侵略しに来た」松田龍平のハマリ役に背筋がゾクッとする『散歩する侵略者』

行方不明になった真治がある日、妻・鳴海のもとに帰ってくる。だが、「地球を侵略しに来た」と告白し、明らかに様子がおかしい——。長澤まさみ×松田龍平×黒沢清監督で描く全く新しい終末映画。

映画『散歩する侵略者』のキャプション画像1
© 2017『散歩する侵略者』製作委員会

 巨大な宇宙船が大陸を覆ったり、隕石が地球に近づいたり。
“世界の終わり”を描く作品は数あれど、人々から概念が奪われることで世界が狂っていく作品はいまだかつて見たことがない。

 それは一体どういうことか? この秋、誰しもが抱いている“常識”を刺激する、新感覚の終末映画が公開される。

『岸辺の旅』でカンヌ国際映画祭ある視点部門を受賞し、国内外で高い評価を得る黒沢清監督が劇作家・前川知大率いる劇団イキウメの人気舞台を映画化。

 長澤まさみと松田龍平が夫婦を、高杉真宙と恒松祐里の若手注目株の二人が“侵略者”を演じる。長谷川博己、前田敦子、小泉今日子といった豪華キャストが名を連ねる。

     

「地球を侵略しに来た」松田龍平のハマリ役

映画『散歩する侵略者』のキャプション画像2
© 2017『散歩する侵略者』製作委員会

 シュールとシリアスのど真ん中を突き、笑いと恐怖を行ったり来たり。終末映画の体をしていても、スケール感を押し付けない。カメラは常に人物に寄り添い、日常がじわじわと狂っていく過程を淡々と描いている。

 侵略者に接触した者は別段凶暴にもならず、狂気を植え付けられたわけでもない。概念を奪われることでむしろ大人しく、決して害にはならない人間として戻ってくる。

 ある日突然「地球を侵略しに来た」と告白する真治のキョトンとした言動が時折笑いを誘う。まるで現世と初めて接触する赤子のように人間社会全てを新鮮に受け止め、いつも仕事に追い込まれている妻・鳴海の手を煩わせる。その体温のない佇まいは松田龍平にしかできない、ハマリ役としか思えない。

 “侵略者”の天野役の高杉真宙、恒松祐里もまた飄々とした態度が妙な不気味さを醸し出し、「その概念、もらうよ」と人差し指を差し出す仕草から、名優たちを食うような存在感で魅力的に映されている。

     

概念を奪うことで「常識」を今一度考える

映画『散歩する侵略者』のキャプション画像3
© 2017『散歩する侵略者』製作委員会

 人間なら誰もが常識として抱いている「家族」「仕事」「愛」といった概念を奪われることは、その人の存在意義を脅かすかのようだ。
ただ、一方で概念を失った者が流す一筋の涙。悲しいのか切ないのか、それとも嬉しいのか。その感情を具体的に描かないことで、本作から提示するテーマが浮かび上がる。

 頭の中から概念がなくなり、社会性を失うことで、人間としてありのままの姿に戻るのかも知れない。そこで本来の幸せを得る者だっているだろう。
「家族は仲良くあるべき」「汗水流して働くべき」などと、数多くの概念に囚われた現代に生きる我々に対し、侵略者は淡々と問答してくる。

 それは本当に幸せなのか? そのままでいいのか?
当たり前として抱く常識は、「常識」とカギカッコで強調されるほど威力がある。それはスクリーンの枠を飛び越えて客席を取り囲み、人間社会までもを覆い尽くすかのようだ。

 これは単なるサスペンス映画に留まらない。真治と鳴海がやがて辿り着くある“概念”の境地が涙を誘う。
本作は人間が人間らしく生きるために、今一度考える余地をもたせるヒューマンドラマでもある。

ストーリー

 鳴海(長澤まさみ)の夫・真治(松田龍平)が数日間行方不明になり、ある日別人のようになって帰ってくる。
真治は「地球を侵略しに来た」と告白し、鳴海はこれまでの態度が様変わりした夫の様子に戸惑い続ける。

 一方、町ではある一家の惨殺事件が起きる。様々な奇怪な出来事が生まれ、ジャーナリストの桜井(長谷川博己)がその真相を追う最中、自らを“侵略者”と名乗る天野(高杉真宙)と立花(恒松祐里)と出会う。

 人間の概念を奪い続ける“侵略者”の目的と実態から、驚くべき真実に直面する――。

9月9日(土)全国ロードショー

監督:黒沢清
キャスト:長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、前田敦子、満島真之介、児嶋一哉、光石研、東出昌大、小泉今日子、笹野高史、長谷川博己
配給:松竹/日活
2017年/日本映画/129分
URL:『散歩する侵略者』公式サイト

Text/たけうちんぐ

次回は<急に父になった遊び人がついた世界で一番優しいウソ『あしたは最高のはじまり』>です。
独身生活を謳歌する遊び人・サミュエルのもとに、かつて関係を持ったクリスティンが「あなたの子よ」と赤ん坊を差し出し姿を消す。突然父親になったプレイボーイは異国の地・ロンドンで子育てに奮闘する——。フランスで大ヒットを記録したヒューマン・コメディ。

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家
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