本当の“家族”とは何か

『ダイ・ビューティフル』画像3枚目 The IdeaFirst Company Octobertrain Films

 トリシャの父親は、トリシャの幼い頃からの女らしい立ち振る舞いを許せず、ついには勘当。トリシャは家を出て行ってしまう。それでも母親を亡くした孤児を育て、トランスジェンダーの友人たちや、その世界にいる人々を“家族”と呼ぶ。
トリシャにとって心の在るべき場所は、生まれ育った家庭にはなかった。自分が自分らしくいるために、“家族”を新しくつくる。

 トリシャにとってメイクは、たとえ姿を変えても、自分自身は変えないもの。本来の姿なんてものは外見ではなく、心の中にあるものだ。
幾夜に渡って数々のセレブに変身しても、トリシャは自分を貫き通し続けた。

「神様、あなたの贈り物を素敵にしました。」

 生前、トリシャが友人に遺志を委ねた時に発した言葉。
どの人生にとっても、その中では誰もが映画の主人公のようなものだ。他の人生を生きる必要はなく、トリシャのように輝き続けることが許されるているはずだ。
たとえ映画化されなくても、セレブでなくても、棺桶に入るその表情が少しでも穏やかであればハッピーエンドなのだろう。

 限りある命でも、美には限りがない。トリシャの死は終わりじゃなく、「最後のミスコン」に変えてしまっただけだ。

 生きていても死んでいても、「私は私だ」。その強い意志に背中を押される人は、決して少なくはないはずです。

ストーリー

 ある日、美女コンテストで優勝したトランスジェンダーのトリシャ(パオロ・バレステロス)が急死してしまう。

 トリシャの遺言は、埋葬前に幾夜にも渡って行われる儀式で、毎回異なるセレブの装いをしてほしいということ。残された友人たちはトリシャの遺志を受け、その願いを叶えるために様々なセレブのメイクを施し、美しいままに葬ろうと奔走する。

 その姿はSNSで広まり、葬儀場は瞬く間にトリシャの美しさを見る人々で溢れかえる――。

7月22日(土)、新宿シネマカリテほか全国順次公開

監督/プロデューサー/原案:ジュン・ロブレス・ラナ
キャスト: パオロ・バレステロス、ジョエル・トーレ、グラディス・レイエス、アルビー・カシノ、ルイス・アランディ
配給:ココロヲ・動かす・映画社○
原題:Die Beautiful/2016年/フィリピン映画/120分

Text/たけうちんぐ

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