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  • 2017.07.08

『魔女の宅急便』から28年後。現代の“魔女”は我々をどう導くのか『メアリと魔女の花』

天真爛漫のメアリはある日、禁断の“魔女の花”と出会うことで魔法の力を得る。その力のせいで、大切な人を巻き込んだ大事件に発展してしまう——。『思い出のマーニー』米林宏昌監督最新作。

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©2017「メアリと魔女の花」製作委員会

 空を飛びたい。ワープしたい。物を動かしたい。――かつて描かれてきた“魔法”の数々から、誰でもその能力に一度でも憧れたことはあるだろう。

 しかしいざ力を得た時、それを憧れのままでいられるのだろうか。力を持つことが絶対とは限らない。主人公・メアリが織りなす悲喜交々が、その答えを垣間見せてくれる。

『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』で、国内外で高い評価を得る米林宏昌監督がスタジオジブリ退社後、第一作目に選んだ題材は、かつて師である宮崎駿監督が描いた題材と同じ“魔女”

 声の出演には杉咲花、神木隆之介、満島ひかりといったこれからの日本映画界を牽引する才能が集結し、天海祐希、小日向文世、大竹しのぶといったベテラン俳優たちが脇で支える。

「ジブリっぽいよね」では済まさない

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©2017「メアリと魔女の花」製作委員会

 メアリはどこにでもいる普通の女の子。少し不器用で失敗もするが、それでも明るく過ごしている性格に親近感を覚える。彼女が最初から大きな力を持っているわけではないからこそ、観客はメアリと同じ視点で魔女の花《夜間飛行》の効力に驚き、一緒に旅をすることができる。

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©2017「メアリと魔女の花」製作委員会

 やがて導かれる雲の上の魔法学校のビジュアルインパクトは、多くの人々が慣れ親しんできたジブリの世界観を匂わせる。とはいえ、米林監督がジブリではなくスタジオポノックの長編第一作に選んだ覚悟は、「ジブリっぽいよね」って感想では済まさない。登場人物の秘密や、暴かれる謎を畳み掛けるように明かし、スピード感溢れる展開に既視感は見当たらない。

 魔法によって変身させられた動物たちがバラエティに富み、人間以外の生き物が魅力的に映されるのが印象に残る。彼らは魔法の力に目が眩み、欲に限りないのない人間たちとは違う。生きることに目的を持たず、ただ生きているというシンプルな佇まいがいかに美しいかを示すかのようだ。

新しい世界の扉を開けるのは自らの手で

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©2017「メアリと魔女の花」製作委員会

 台風や地震など、自然災害が起こるたびに人間の無力さを痛感する。本作に出てくる魔女の花さえあれば、誰かを助けることや、限りある命すら救えるかも知れない。

 だが、メアリが示すように力を持つことが幸せになるとは限らない。無力だからこそピーターと支え合い、物事を解決に導こうとする。その過程が描かれることで、魔法が使えない人間そのものを肯定しているかのように思える。

 シャーロット叔母さんの知られざる過去、猫のティブとギブの深い絆、赤毛の魔女の正体などが明るみになるにつれて、物語の高揚感が一気に加速する。スピード感のあるストーリーテリングはある種の“ジブリらしさ”から良い意味で解き放たれ、その上でキャラクターデザインや世界観などは宮崎アニメに深いリスペクトすら感じ、尊い歴史の中で独り立ちしているような印象を受ける。

 メアリは大事件に巻き込まれる。魔女の国から逃れるために「呪文の真髄」を手に入れ、魔法の力を終わらせようとする。
新しい世界の扉は魔法ではなく、自らの手で開ける。そこにはかつて描かれた“魔女”のイメージを新時代において更新する、そんな気概すら含まれている。

『魔女の宅急便』から28年後、この現代において“魔女”はどう決断し、我々をどう導くのか。

 この世界はいつだって、どこにでもいる普通の女の子が新しい扉を開け続けている。メアリはその象徴に違いない。

ストーリー

 不器用で天真爛漫な少女・メアリ(声:杉咲花)は、森の中で7年に1度しか咲かない魔女の花《夜間飛行》と出会う。魔女の国から盗み出された禁断の花は、一夜限りの魔法の力をメアリに与える。

 雲海にそびえ立つ魔法世界の最高学府《エンドア大学》の入学を許可されたメアリは、たったひとつの嘘をついたことで大切な人を巻き込んだ大事件を引き起こしてしまう。

 少年・ピーター(声:神木隆之介)との出会いや、魔法学校の校長マダム・マンブルチューク(声:天海祐希)、怪しい実験を続ける科学者ドクター・デイ(声:小日向文世)など、様々な人物が魔女の花に翻弄されていく――。

7月8日(土)、全国東宝系ロードショー

監督:米林宏昌
キャスト(声):杉咲花、神木隆之介、天海祐希、小日向文世、満島ひかり、佐藤二朗、遠藤憲一、渡辺えり、大竹しのぶ
配給:東宝
2017年/日本映画/102分
URL:『メアリと魔女の花』公式サイト


Text/たけうちんぐ

次回は<「死んでも美しくあり続けたい。」――あるトランスジェンダーの死と波乱に満ちた人生『ダイ・ビューティフル』>です。
「ミスコンの女王」と称されたトランスジェンダーのトリシャの遺言から、埋葬前の儀式で毎回異なるセレブの装いをさせるために、残された友人たちが奮闘する——。2016年東京国際映画祭で受賞したフィリピン映画。

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ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家
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