ある意味冷めた愛情描写が逆に愛おしい?

 上映時間100分とは思えない。体感時間は200分。いや、それ以上?ポップで軽快に次々とページがめくれていく。めくるめくグランド・ブダペスト・ホテルと主人公グスタヴ・Hの旅に没頭していきます。

 グスタヴ・Hの側近、ベルボーイ・ゼロの二人のコンビが最強。身長や身分、あらゆる意味で凸凹な二人が殺人事件に巻き込まれ、容疑者の濡れ衣を払拭するためにヨーロッパ中を駆け巡る。
そこで出会っていく数々の人物と、暴かれていく事件の真相。一本の映画に何十本ものジャンルの映画が凝縮されているとも言っていいほど濃密な100分間です。

映画『グランド・ブダペスト・ホテル』 2013 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 スキーのシーンは映画史に刻み込まれるであろう名シーン。とはいえ、バスター・キートンやチャールズ・チャップリン作品など無声映画に敬意を表したオマージュを感じ、“シュール”って言葉で簡単に片付けてもいいほど、軽いジョークの連続攻撃が一切の油断を許しません。

 ゼロとその恋人・アガサのコンビネーションも見所の一つ。
新米パティシエとして才能を秘めた彼女が後半にグランド・ブダペスト・ホテルとグスタヴ・Hの名誉を担うかのように、恋人のために奮闘するシーンは胸が熱くなる。
ウェス・アンダーソン監督はエモーショナルになることを避けた人物描写が定番ですが、このある意味冷めた愛情の描き方がゼロとアガサの二人を余計に愛おしく思わせてくれるのです。

高級ホテルに見合った、こだわりの映像美の追求

 映像に関して言及するとキリがない。構図、タイミング、配置ともに完璧。画面サイズは劇中の時代によってころころ変化する。そして何より、ウェス・アンダーソンお得意の“シンメトリーマジック”が本作でも健在です。

 人物、美術、小道具の配置から、移動して立ち止まるまでの時間とカメラの移動。すべてが左右対称を完璧に作り出し、ワンシーンごとが絵画のように美しいのです。そのこだわりは窓の外の奥の奥にまで徹底している。

映画『グランド・ブダペスト・ホテル』 2013 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 列車が止まり、窓の外の奥の人たちまで完璧に窓の中に全員収まっている。どうやって撮影しているの?ってシーンが大量。ウェス・アンダーソン監督の神経質とも呼べそうなこだわりが、この映画ではもう度を越している。

 この人絶対部屋キレイです。一緒に暮らしたら毎日掃除してくれそうです。それこそ高級感漂わす様式美を日常に取り入れてくれそう。
もっと言うと、最終的にはグランド・ブダペスト・ホテルを作ってしまいそうな。実際、この映画で作ってしまったんだから、その美的センスを存分に味わえること含めて、贅沢な作品なのです。