私たちの群れ

 かつて、友人宅で適当な酒を飲み散らかし、死屍累々となって、朝方に復活した時のこと。その日はなぜか友人に「グレート・ジャーニー」の話を聞きました。飲み会で最後まで生き残った人だけができる類の話です。

 アフリカ大陸で生まれた人類は、群れを成して世界中に長い長い旅をした。5万キロに渡る道のりを歩くとき、人類は黙っていたのではなく、歌ったり、楽器を鳴らしたりしていたはず——。大学時代の友人は、その道のりと音楽について研究をしていたらしい。
朝の冷えた部屋の空気、太古の昔の人々が鳴らす音楽。まだ学生の姿の友人が、はるか遠くの人々の群れを追いかけていく姿のイメージが重なり、今までに聞いた飲み会明けの話でも一番好きなエピソードになっています。

 そして、今になって、見たことのない風景を想像するのです。
カワウソ夫婦が合流した群れには、それぞれの両親や兄弟夫婦、甥や姪、叔父さんたちがいる。大人たちと荷物を分かち、子どもたちと手を繋ぎ、年長者の肩を支え、ぶらぶらと野山を歩いていく。集団の先頭や後ろになりながら歩みを進め、昼には楽器や歌声が交じり、夜には松明を灯す。いつしか群れは小さく遠くなり、大地の果てに消えてしまう。

雑なキンフォーク

 夫は休日の朝になると、「お腹すいたお腹すいた!!」と叫びながら勢いよく寝床を飛び出してゆき、しばらくすると「ご飯だよ!!!!」と起こしに来ます。テーブルには、どんぶり飯に炒めた卵やウインナー、肉団子などがぶち込まれた凄まじい朝メシ。
起き抜けにどんぶりでエサを与えられるので、毎回爆笑してしまう。でも夫は、いつでも必ず家族分までエサを確保してくれる人なのです。富める時も、貧しき時も、それは多分変わらないと思う。

 オシャレな暮らしのお手本として名高いライフスタイル誌『Kinfolk(キンフォーク)』のタイトルは、「一族」という意味の言葉だそうです。キンフォーク的な暮らしとは似ても似つかないけれど、カワウソも同じ「一族」を愛する意識を持っている。
ボロは着てても心は錦。暮らしは雑でも、これがワイのキンフォークや!!!

 好きな人と、好きな形で家族になり、その後は大小の群れを成して長い旅を続ける。いまのカワウソにとって、人生とはそういうものかなぁと思います。そして、どうせなら配偶者や自分の子供だけでなく、親族や友人を含めた群れ全体を愛していれば、遠い未来まで愛は誰かを伝って生き続ける。これはもはや、永遠の命を得たも同然では……?

 妖怪のようなことを書いてしまいましたが、焦りがちなカワウソと、のんびりした夫。お互いの歩幅をなるべく揃えて、どこまでも一緒に歩んで行けるといいなと思います。

(おわり)

Text/カワウソ祭