「違和感」の正体

 みんみんにはじめから感じていた違和感が何なのか、わかった気がする。それは、彼女の強がりなんだと思った。
性の話ばかりを話し、辛い話をなんてことないように形容し、将来の話を冷めた口ぶりで話す。それらは全て、“今、心に蓋をしている時期”ということなのだろう。
6年付き合っていた彼氏に、話し合いすら許されずにフラれた。その彼氏から数日前に連絡が来た。さらに今、将来という大きな分岐点に居る。

 今みんみんはとても傷ついていて、でも傷ついていることをしっかり受け止める勇気がまだなくて、考えなきゃいけないこと・決断しなきゃいけないことがいっぱいで、心にバリアを張ってしまっているんだろう。
「あんたね、盛大に傷ついてること認めて、ちゃんと向き合いなさいよ!」なんて言葉を言いたくなる。言うタイミングを伺っていたら、お店がもう閉店となってしまった。
閉店ですと店員が伝えにきて、帰り支度をし始めたら、みんみんがボソリと言った。

「もし私が長女じゃなくて、色んなプレッシャーから解放されたら、本当は就活もしないでバンドをやる。でもそんな勇気なくて、“就職して家族を旅行に連れていくことが夢”なんてことにしてる。ホントは好きなこと、やりたいですよ…」

 なんだお前! 閉店ってなったらそんな風に素直な言葉を口にしやがって!
どこまでもどこまでも、素直になれない女だ。もう、バカタレ! と抱きしめた。

 どうしようもできない思いがこじれて、今彼女は素直になれなくなっている。
本当は元カレと一緒に居たかった。でも元カレは、選んではくれなかった。
本当はバンドをやっていたい。でも家族のプレッシャーから逃げられない。
恋も、将来も、恐らく初めて、そして急に、彼女を優しく見守ってくれなくなっている。 「何かが違う」その感情だけが、きっとみんみんの中に育っている。

 みんみんは確かに今、色んな男とやっている。愛の無いセックスを繰り返している。
でもそれは、“性に奔放”ではないのかもしれない。
バンドと、6年間捧げたダメな彼氏の方にはもう転ばず、真面目な将来を踏み出すために今、彼女はパワーを付けている。
パワーとは、「私は愛されるに足る人間である」という証拠の数。今みんみんは、多くの男に求められるという記憶を体に刻み込んでいる。そうして、グチャグチャになってしまった自尊心を取り戻している。

 来年の4月からは、しっかりとした企業でスーツに身を包んで、仕事を始めるみんみんがきっと居る。出会ったばかりの男とゆきずりの関係になることももうしないだろう。

 高円寺、確かにこじれた22歳が居た。しっかりとした人生を歩みだす前の、猛烈に乱れて傷ついた彼女が居た。飲んで飲んで浴びるように飲んだ先に、初めて呟く本心が垣間見えた。

 そして、その横でもう一人一緒にお酒を飲んでいた21歳の恋バナを、次回はお送りします。今度は「お姫様に扱われたい女」な、現役大学生キャバ嬢です。まためんどくさそう? めんどくさくない人間なんて、居るのかな。
街ゆく人のリアルな恋バナが、ここにある…。
≫傷つき尽くして、また恋しよう≪

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