恋レベルに好きな女の先輩がいました

やすこさん(東京都)
エピソード:
 高校の頃。
 女子校だったのですが、部活にもはや恋レベルに好きな先輩がいました。
 とはいえ2人で話す機会はほとんどなく、卒業のとき渡すお礼のお手紙が最後のチャンスでした。
「本当に大好きでした!」と熱い思いをしたため、最後に「ありがとうございました?」と書いて渡しました。
 数日後、ひとけのない廊下に呼び出されました。
 先輩の手にはハートマークを3本線で消した私の手紙。
「先輩は友達ではないのだからこんなふざけた表現をしてはいけない。そんなあなたがこれから部を引っ張っていく立場になるなんて不安である」とものすごく怒られました。
 先輩に嫌われたのもショックでしたが、部活にとって悪いことをしてしまった!と真に受け、放課後ひとりマックで泣きました。
 それ以来、友人への普通のメールでも絵文字を付けるのが怖いです。

 絵文字恐怖症だと、今の世の中を生きるの、大変そうですね。LINEとかって、ノースタンプでやってると、教室の後ろに貼られたたくさんの水彩画の中にひとつだけあるお習字の「初日の出」みたいに居心地の悪さを感じます。

 僕も一応、自分の文章力に自信を持っていたころは「メールには意地でも絵文字・顔文字をつけない、必要なことをぜんぶ文章で伝えてこそ文章家ってもんだろう」みたいに思っておりました。

 まあもう加藤茶ばりに若者文化に日和りまくっている今では、短歌にさえ顔文字を入れるほど軟弱になりましたよ。

オワタ\(^o^)/とお嘆きのかた 平気です ずいぶん前に終わっています(佐々木あらら『モテる死因』より)

 さておき、ウキウキした恋の気持ちを一刀両断にされた痛み、お察しします。

 人のいない廊下に呼び出されたら誰だって少しは「この前の手紙の返事かな。もしかして先輩も私のこと想っててくれた、という逆告白かも」みたいに期待してしまうものですよね。この「溜め」の間が、味わい深い「恋の怨霊」を生み出している、いいエピソードだと思います。

 やすこさんがつくってくれた短歌はこちら。

二年間秘めた思いは一瞬で三本線の前でぐしゃぐしゃ(やすこ)

 この短歌だと、エピソードを読まないと怨念が読者に伝わらなくてもったいないですね。とはいえ、エピソードそのままだと31文字の容量からオーバーしそう。むずかしいですね。

 じゃあ、かなしい結末のワンシーンをピックアップして、ちょっとだけアレンジしてみましょうか。

ひとけのない廊下に立った君の手で破られていく手紙や恋や

みたいな。うーん、ちょっとまだ足りませんね。これに今度は風景と音響を加えてみましょう。

夕暮れの渡り廊下で君の手が恋と手紙を破る良い音

 どんなもんでしょう。短歌を引き立たせるときに、何か一つのものに焦点をしぼってみたり、色や音に注目してみたりするのは、作戦としてはアリかなと思います。

 まあ、「夕暮れ」はかなりベタだし、後半もまだまだスッキリいじれそうです。やすこさんなりの「たましいに沿った」答えを探してみてください。