「好きな人と本当に好きかもしれない人って別なの」仕事相手の間男になった話/中川淳一郎

取引先の年上女性とサシ飲みへ

彼女は当時31歳で僕は25歳だった。彼女・木村さんはとあるスーパーの仕入れ担当で、僕は食品メーカーの営業。何度も打ち合わせをしたり、互いの職場を視察するなどしてから約1年、彼女は「ニノミヤさん、一度飲みに行きませんか?」と誘ってくれた。「私の会社の経費で落とせると思いますので」とも言い、上司に対しては「情報交換」といった言い方をしてくれるみたいだった。本当は僕の方で「接待」として経費をもらう手もあったけど、25歳の自分は使える経費が少なかったので彼女の好意に甘えることとした。

彼女が行きつけだという都内の会社近くの居酒屋に行き、18時30分の待ち合わせだったけど、あまりにも楽しく飲んだところ、気付いたら23時30分になっていた。埼玉に住む彼女は「もうすぐ終電! ニノミヤさん、意外と早く時間過ぎましたね」と言い、僕達は駅まで一緒に行き、逆方向に向かった。

この日の飲みがお互い非常に心地よかったのか、彼女とは2週間に1回ほど「情報交換」の名目で酒を飲むようになっていた。当然2回目以降は経費ではなく、割り勘だ。このときはカウンターのバーで二次会をしたのだが、彼女がトイレに行く際、私の肩を「よいしょ」とばかりに両手で押さえてから行った。そして、戻ってきたときは「さっきは肩を触っちゃってごめんなさいね」と言った。

「いえ、嬉しかったですよ」

こう伝えたのだが、そこから先、彼女と僕は足が何度もぶつかったり、「やーだー!」なんて言いながら僕の肩を抱いたりしてきた。当時は茶髪にするのがブームだったが、漆黒のロングヘアーの彼女は色が白く、酒を飲むとほんのりと頬はピンクになるのがきれいだった。

3回目のこのとき、お互いの恋人の有無の話になった。

「僕はいませんよ」

「欲しくないの?」

このとき、すでに彼女は年上ということで僕に対してはタメ語で喋っていた。僕は敬語のままだった。

「欲しいとは思うものの、何しろモテないんですよ……」

「ニノミヤさん、そうなの~。モテそうだけどね。いい男だと思うよ」

「き、木村さんはどうなんですか?」

こう聞くと彼女は「もう一杯お願いします!」と店員に声をかけ、4杯目のグレープフルーツサワーを注文した。「もう一杯来たら言うよ」と言い、彼女はニヤニヤしている。

そしてグレープフルーツサワーがやってきたが彼女は一口飲んだらすぐに「いるよ」と言った。

「もう7年も付き合っているカレなの。私よりも年上の35歳。多分彼は私と結婚をしたいと思っているの。ニノミヤさんは結婚したくない?」

「いやぁ……僕にはまだ先の話ですよ」

「ねぇねぇ、私が結婚したら寂しい? 実はね、私、あなたのことけっこう好きになっちゃったの」

まさかの展開である!

「えっ!? でも、木村さん、彼氏とそんなに長い関係なのに僕なんて最近会った新参者だし、付け入る余地ないですよ!」

「あのね、男と女ってけっこう色々微妙なのよ。好きな人と本当に好きかもしれない人って別なの

何やら「大人の会話」的になってきたが、木村さんは「ニノミヤさん、あなたのことけっこう好きよ」と肩に頭をつけてきた。そして、バーのマスターが奥の厨房に入った瞬間、僕の唇にキスをした。

完全にドギマギしてしまったが、まさかの展開にこちらは茫然とするしかなく、気の利いたことも言えず、前回同様23時30分が来たから会計をした。ただし、前回と違ったのは2週間後の土曜日にデートをすることを約束したことだ。ドライブをすることになり、JR浦和駅の近くに彼女は朝10時に車を停めて待っていると言った。