控えめな承認欲求をうまく刺激する妻

 既婚者の知人友人から掃いて捨てるほど聞く話なのですが、夫の家事については「褒めないと伸びない」というのが定説になっていて、それが妻たちにとっては、非常に煩わしいんですね。もちろん「褒めるだけで家事をやってくれるなら、いくらでも褒めますよ」という妻もいますが、その一方で「なんで家事ごときでいちいち褒めないといかんのじゃ、こっちの家事は一ミリも褒めないくせに~!」とイラついている妻がいるのもたしか。
ですから、いちいち褒めなくても、ちょっとずつ家事を覚えて上達していく劔さんは、主夫としてかなり優秀です。

 彼だって、やっぱり“仕事を認められたい=家事を褒められたい”と思う瞬間はあるんでしょうけれど、主夫としての生活をマンガにし、たくさんの人に見てもらうことで、妻ひとりに対する「褒めて! 褒めて!」のアピールを軽減することに成功しています。ちなみに、家事マンガを描くよう勧めたのは犬山さんとのことで、主夫の生活を創作に繋げたのは本当にナイスアイデアだなあと思わずにはいられません。
あと、犬山さんって、劔さんをやたらめったら褒めず、ここぞ! というタイミングでバシっと褒めるんですよ。しかもその言葉が、いい意味でドライ&的確。

「家事には休みもないし、ずっと続く/重労働なんだよ/それをやって/くれてるんだから/私の収入の半分は/自分のものだと思って/自信を持って/どう思われても/気にしなくていいよ」

 ……この家には、劔さんのほかにもうひとり王子様がいる。そんな風に思わせるカッコいい発言だと思いませんか?

 強気×弱気のバランスが絶妙で、未知の領域へ軽々と踏み込んでゆく胆力があり、承認欲求はあくまで控え目……そんな男が家庭の中にいたら、それはもう、王子様ってことでいいんじゃないでしょうか、というのが今回の結論です。

 もうね、異論は認めませんからね。世間は、いつまでも夢を追いかける少年のような男だけでなく、生活感にあふれた主夫も王子様なんだと気づくべきなんです、絶対そうなんです!

 追伸・この本、わたしの夫が一瞬だけ登場するんですが、彼の発言は王子様というよりおばあちゃんの知恵袋でした(各自ご確認ください、笑)。

Text/トミヤマユキコ

次回は<いい大人の不器用さが“恋の旨味”だと再認識する『椿町ロンリープラネット』>です。
大人だって少女漫画の少女漫画を楽しめます!制服ヒロインものという王道設定なのに、全く新しい『椿町ロンリープラネット』。労働系女子の初めての恋、恋に右往左往するダメで不器用な大人のいとおしさ。大人だからこそ楽しめる恋の旨味を少女漫画で再確認しませんか?