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  • 2017.07.15

「頼もしい」男とは体格や経済力の高さではないことを証明する『3月のライオン』

藤井聡太四段の躍進からも、最近何かと話題の将棋。そのブームの影なる火付け役ともいえる、長寿漫画『3月のライオン』はご存知ですか? 名作『ハチミツとクローバー』を手がけた羽海野チカさんが描く男性キャラは、とにかく愛くるしい! この機会に「非イケメン」なヒーローを推してみませんか?

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃??いつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

王子様候補がたくさん!
人生を粘り強く乗り越える男たち『3月のライオン』

トミヤマユキコ推せる!マンガの王子さま3月のライオン編
『3月のライオン』1巻/羽海野 チカ(著)/ 白泉社

 将棋ブームがとんでもないことになっております。若き天才、藤井聡太四段による怒濤の29連勝は、歴代単独1位! 連勝ストップを残念がる声もあるようですが、14歳で29連勝という記録はやっぱりすごいです(自分14歳のときなんて、おやつとかアイドルのことしか考えてなかった)。そして、ひふみんこと加藤一二三九段の個性的すぎる言動と、かわいいおじいちゃんぶりは、凡百のゆるキャラをはるかに凌ぐものです。

 闘う男だけど、マッチョすぎない。天才だけど、なんだかとっても親しみやすい。そんな棋士の魅力に遅まきながら気づいてしまってもう後戻りできない! と思っている方も多いのではないでしょうか。

 でも、2007年から『3月のライオン』の連載を、読んでいた方たちは「ようやく気づいたか! フハハ!」という感じかも知れません。かくいうわたしも、同作を読んで、将棋のルールよりも先に、棋士がいかにチャーミングな生き物かを学んだクチです。
作者が『ハチミツとクローバー』を手がけた羽海野チカ先生ですから、個性的&魅力的な男子を描くのがお得意なのは当然……だとしても、未成年から、ヨレヨレのご老人まで、多種多様の棋士たちを描き分けつつ、みんなを愛すべき人物として描いているのは、やはり感動的です。

「ただしイケメンに限る」じゃなくて、非イケメンすらかっこいい。その意味で『3月のライオン』は王子様候補だらけのマンガなのです。

「好き=結婚」のかわいい思考回路

 で、まずご紹介したいのは、主人公の「桐山零」。家族を突然の事故で亡くし、天涯孤独となった彼は、親戚内に親切な引き取り手を見つけることができず、生きていくために将棋の道を選ぶことになります。それは、亡父の友人だった棋士「幸田」の家に入り、内弟子として暮らすこと。しかしその日々は、かなりキツいものです。幸田の実の子どもたちよりも将棋が強くなったことで、いよいよ家に居場所がなくなった零は、ひとり暮らしを開始。そこでようやく、自分を家族のように扱ってくれる川本家の三姉妹と出会います。

 親を亡くしたことで、同世代の子たちよりも早く大人になることを強いられた零ですが、子ども時代の積み残しによって、急にあどけない部分が覗いたりもします。というか、そのギャップが、この王子様最大の魅力だと言っても過言ではありません。

 とくに10巻以降の零は、恋する男子の顔と、強くてかっこいい棋士の顔を交互に見せてくれて、本当に目が離せません。
川本家の次女「ひなた」を好きだと気づいてしまった零は、いつかひなたと結婚することを目標に設定するのですが、愛が暴走してしまって、肝心の恋愛過程をすっ飛ばしています。

「僕は/ひなたさんとの結婚を考えています」
「あ いえ/付き合ってません/——というか/まだ伝えていないので」
「大丈夫/これから時間をかけて/説得します!!」

 ……そう、全ては零のひとり相撲。しかしこれが、彼のワガママに見えず、むしろ超絶ピュアな恋心に見えるのは、彼が子どもの心でひなたを好いているから。零くんよ、好き=結婚、という思考回路が小学生みたいで可愛いぞ。

 いつものわたしなら、こういう男子を見ると「相手の気持ちも考えろや~!」と思うところなのですが、零のことは100%許せる。むしろひなたちゃんを説得したい。あいついい奴だよ、と。だって、プロ棋士としてやっていくことだけを考え、打算でパートナーを選ぶ人だっているだろうに、零は、ひなたのしあわせのためなら、川本家の厄介ごとすらまるごと引き受けようとするんですよ? そんな高校生いますか? しかもすでに年収700万超えですよ?
この胆力、大の大人だって、そうそう持ち合わせているもんじゃない。見た目はまだまだ子どもでも、親分とか頭領とか呼ばれる人の腹の括り方です(かっこよすぎ)。

「頼もしい」とは人生を粘り強く乗り越える男のこと

 零が大人×子どもの心でひなたを愛する一方で、川本家の長女「あかり」は、ふたりの男性から真剣にアプローチされそうな予感。

 ひとりめは、零の高校の先生「林田」。将棋好きがきっかけで零との距離を縮め、なんだかなんだと世話を焼く兄のような存在です。が、零としては、もっとしっかりした男とあかりをくっつけたい様子(まあ、親分タイプの零から見たら、たいていの男がヤワですよね)。
でも、よい教員の特質である忍耐強さとか、適度な明るさとか、悩んでいる人をそれとなく導く技術とかは、あかりを支える力になりそう。

 そしてふたりめは、零と同じ将棋の世界に生きる男「島田」です。大変な苦労人で、胃痛持ち、あとちょっと頭髪が薄くなってきています。そう書いてしまうと、身も蓋もない感じですが(笑)、男子としての魅力はともかく、器のでかさはピカいちです。
とくに、零のライバルにして親友「二階堂」の体調を気遣う優しさは、血の繋がった親子以上のものを感じさせます(二階堂は、 故・村山聖九段をモデルにしていると言われており、持病を抱えながら将棋道を突き進む様子は胸に迫ります)。決して派手ではありませんが、そっと見守り手助けすることのできる男です。

 この先、ひなたが零を好きになるかはわかりませんし、あかりが林田もしくは島田とくっつくかもわかりません。しかし、『3月のライオン』には、将棋に人生を捧げつつも、他人の人生に寄り添える、サポート上手な王子様がこんなにいる……
「頼もしい」って、ガタイの良さとか、経済力だけで決まるものではありません。人生の山あり谷ありを、それこそ将棋のように、時間をかけて、頭を使って、粘り強く乗り越えていく男たちもまた、頼れる王子様なのです。


Text/トミヤマユキコ

次回は<働く主夫こそ“王子様”!劔樹人『今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻の方が稼ぐので僕が主夫になりました』>です。
「王子様」というと、少女マンガに出てくるようなキラキラとした男性が思い浮かびますよね。しかし、今回ご紹介するのは劔樹人さんのコミックエッセイ『今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻の方が稼ぐので僕が主夫になりました』。トミヤマユキコさんが力説する「主夫の王子様」その魅力とは…?

ライタープロフィール

トミヤマユキコ
ライター・研究者。早稲田大学非常勤講師。
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