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  • 2017.08.10

働く主夫こそ“王子様”!劔樹人『今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻の方が稼ぐので僕が主夫になりました』

「王子様」というと、少女マンガに出てくるようなキラキラとした男性が思い浮かびますよね。しかし、今回ご紹介するのは劔樹人さんのコミックエッセイ『今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻の方が稼ぐので僕が主夫になりました』。トミヤマユキコさんが力説する「主夫の王子様」その魅力とは…?

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

家庭の中にだって王子様はいる!
『今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻の方が稼ぐので僕が主夫になりました』

トミヤマユキコ推せる!マンガの王子さま今日も妻の靴下は、片方ない編
『今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻の方が稼ぐので僕が主夫になりました』劔樹人(著)/双葉社

 今回ご紹介するマンガは、犬山紙子さんの夫である劔樹人さんのコミックエッセイ『今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻の方が稼ぐので僕が主夫になりました』です。

  えっ!? それって、少女マンガでもなければ、王子様でもないのでは? と思ったそこのあなた。本作が少女マンガじゃないのは100%認めますが、「王子様でもない」の部分は訂正させてください。
劔さんって(失礼を承知で書きますが)見た目こそゆるキャラっぽいですけど、3次元の男のなかではかなり王子様感のある方なんですよ。ですからまずは騙されたと思ってわたしの話を聞いてくださいよ……。

 犬山・劔夫妻は、基本的に犬山さんが外で稼ぎ、劔さんが主夫として家事を担当しています。共働き家庭がかなり増えてきたとはいえ、いまの日本ではまだ「男は外、女は内」を基本型としている夫婦が多いですし、女に養われる男は「ヒモ」とみなされてしまいがち。正直なところ、まだまだ主夫への風当たりは厳しい状況かなと思いますが、劔さんには、悲壮感とか自虐的なところがあまりないんですね。

「ヒモと言われたら気にするけれど、それでも我が道を行く」

……どうですか、この弱気と強気のミックス感。世間体なんてどうでもいいとまでは言わない(言えない)、でも、信じた道を突き進むぜ的なポリシー。
実際そんな男の心境って、少女マンガにもよく表れてますし、みんな大好物じゃないですか。ふだんは強気だけど風邪をひくといきなり弱る男子とか、ツッパリなのに捨て猫を拾ってしまう男子とか、劔さんの言ってることって、構造的にはよく似ているんですよ(笑)。強気と弱気が混在していることは、少女マンガの王子様にはなくてはならない条件です。

未知の領域に踏み込める胆力

 34歳で結婚すること、そして主夫になることを決めた劔さんですが、独身時代は音楽活動とか、オタ活とか(ハロプロがとくにお好きなようです)、好きなことをするのに夢中で、生活環境を整えるなんてことは考えたこともなかったそう。つまり、家事に関してはど素人。それを「よしやってみよう」のひと言でチャレンジしてしまうのって、実はすごいことなんじゃないでしょうか。

 わたしの元カレなんて、賞味期限が過ぎてしまった生卵をどうやって捨てたらいいかわからなくて、とりあえず全部割って台所に流そうとしたが流れず、「熱湯をかければ溶けるのでは?」とお湯を掛けたら卵が見事にかたまり(当たり前)、シンクの排水機能が完全に死んだことがあったんですが、そのときの凹みようといったらなかった。一応、彼の名誉のために言っておくと、仕事とか勉強はすごくできるタイプでした。
こうなるともう、「俺が家事をやるなんて所詮ムリだったんだ!」という方向に頭が働くばっかりで、この難局をなんとか乗り越えようというモードには切り替えられないわけです。

 ある程度年齢を重ねた大人の男にとって、未経験の家事労働にチャレンジするのはそれなりに心理的なハードルが高く、それをひょいっと乗り越えるには胆力の有無が大きく関わってくる。劔さんには、その胆力があるのです。

 そして、ここが劔王子の最高なところだと思うのですが、彼は家事を褒められなくてもやるんですよ! これは本当にすごい才能!

控えめな承認欲求をうまく刺激する妻

 既婚者の知人友人から掃いて捨てるほど聞く話なのですが、夫の家事については「褒めないと伸びない」というのが定説になっていて、それが妻たちにとっては、非常に煩わしいんですね。もちろん「褒めるだけで家事をやってくれるなら、いくらでも褒めますよ」という妻もいますが、その一方で「なんで家事ごときでいちいち褒めないといかんのじゃ、こっちの家事は一ミリも褒めないくせに~!」とイラついている妻がいるのもたしか。
ですから、いちいち褒めなくても、ちょっとずつ家事を覚えて上達していく劔さんは、主夫としてかなり優秀です。

 彼だって、やっぱり“仕事を認められたい=家事を褒められたい”と思う瞬間はあるんでしょうけれど、主夫としての生活をマンガにし、たくさんの人に見てもらうことで、妻ひとりに対する「褒めて! 褒めて!」のアピールを軽減することに成功しています。ちなみに、家事マンガを描くよう勧めたのは犬山さんとのことで、主夫の生活を創作に繋げたのは本当にナイスアイデアだなあと思わずにはいられません。
あと、犬山さんって、劔さんをやたらめったら褒めず、ここぞ! というタイミングでバシっと褒めるんですよ。しかもその言葉が、いい意味でドライ&的確。

「家事には休みもないし、ずっと続く/重労働なんだよ/それをやって/くれてるんだから/私の収入の半分は/自分のものだと思って/自信を持って/どう思われても/気にしなくていいよ」

 ……この家には、劔さんのほかにもうひとり王子様がいる。そんな風に思わせるカッコいい発言だと思いませんか?

 強気×弱気のバランスが絶妙で、未知の領域へ軽々と踏み込んでゆく胆力があり、承認欲求はあくまで控え目……そんな男が家庭の中にいたら、それはもう、王子様ってことでいいんじゃないでしょうか、というのが今回の結論です。

 もうね、異論は認めませんからね。世間は、いつまでも夢を追いかける少年のような男だけでなく、生活感にあふれた主夫も王子様なんだと気づくべきなんです、絶対そうなんです!

 追伸・この本、わたしの夫が一瞬だけ登場するんですが、彼の発言は王子様というよりおばあちゃんの知恵袋でした(各自ご確認ください、笑)。

Text/トミヤマユキコ

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ライタープロフィール

トミヤマユキコ
ライター・研究者。早稲田大学非常勤講師。
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