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  • 2017.06.19

真のいい女とは?人間不信なイケメンは“特技”がある女を好きになる『高台家の人々』

飾ってないそのままの自分を愛されたい、だなんて現実では高望みかもしれませんが、それが通用するのが少女漫画!人の心がよめる人間不信の高スぺ王子様と平凡なOLの物語ですが、エスパーとまでいかなくても意外と現実世界でもありえる話かも?「真のいい女」って、なんでしょう…。

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

王道ストーリなのに、とにかくユニーク!『高台家の人々』

『高台家の人々』1巻表紙の画像
『高台家の人々』1巻/森本 梢子(著)/集英社

 『高台家の人々』は、冴えないOLとイケメンエリート社員がひょんなことからカップルになる、という王道ストーリーですが、その中身はとてもユニーク。自分には恋愛なんて関係ないと思っていたヒロインが王子様に見初められるきっかけが、すごく性格がいいとか、陰ながら努力しているとかじゃなく、「妄想が得意だから」なんです。

 本作の王子様で、名門・高台家の長男である「光正」は、イギリス人の祖母から人の心が読める超能力「テレパス」を受け継いだエリートサラリーマン。彼の兄弟である「茂子」と「和正」もまた、テレパスの持ち主ですが、普段はそれを隠して生活しています。まあ、正直に言ったところで信じてもらえないか、気持ち悪がられるだけですからね。

 他人の考えが読めてしまうテレパスの生活は、想像以上にストレスフルなものです。光正は、名家の長男で、日本人離れした顔立ちで、仕事もできるときていますから、金目当て&顔目当ての女がじゃんじゃん寄ってきます。
男たちだって、彼を放っておきません。彼の出世を嫉妬したり、ごまをすっておこうと考えたりしている。そうした思惑がいやでも脳内に流れ込んでくるのですから、ストレスがない方がおかしい。

 人間不信の王子様である光正にとって、ぼんやりOL「木絵」の特技である“くだらない妄想”は、彼の固く閉ざされた心を開け放ってくれるものでした。

 やがて光正と交際を始めた木絵は、光正の実家に招かれ、兄弟たちに会うのですが、「こっ…これは!!/黒髪・碧眼・超美形の高台様が三人も!!/こんな人達が普通の人間であるはずがないっ…/おそらく彼らは千年を生きるバンパイアの一族で/彼らの正体を知ったダッフンヌ神父に狙われて/日本に逃れてきたのだった」……みたいなとんでもない妄想を延々と繰り広げてしまい、それを読めてしまうテレパス三兄弟は笑いをこらえるので必死。しかし、そんな木絵だからこそ、光正たちを癒すことができるのです。

「そのまま」しか求めない、欲のない王子

 光正という王子様のすごさは、木絵に文字通り「そのままであること」しか求めていない点にあります。
彼女が「もっさい」「とっちゃん坊や」という言葉で表現されていたりすることからもわかるのですが、とにかく幼くてイケてない。結婚適齢期の女子としては、かなり「意識低い系」と言えます。

 しかし光正は、もっと化粧やオシャレに気をつかえとも言わないし、料理や家事をちゃんとやれとも言わない(そもそも高台家にはメイドとコックがいるので妻は家事をやらなくてよい)。また、マザコンではないので、母親のような包容力も求めていません。木絵の家柄なんかもどうでもいいみたいです。高台家は名家ですから、本来であれば、高スペック女子の中から、わりと性格のいい女子を選んだ方が人生はイージーモードなのに、それをしない。

 とにかく妄想好きで、ぼんやりさんで、他人とギスギスすることのない木絵が好きで仕方がない。その意味で光正は、多くを望まない王子様、こんなにハイスペックなのに恐ろしいほど欲のない王子様です。

 ちなみに、弟の和正も、あまり多くを望まない王子様だと言えるでしょう。
小さい頃からよく知っている「純」のことが好きなのに、ちっとも距離を詰められないのは、純がずっと光正に片思いしていたのを知っていたということもありますが、やはり、自分がテレパスであることで、好きな人を苦しめる可能性があると考えているから。
本当は好きだと伝えたいのに、その気持ちを押し込めて、なんでもないような顔をしてしまう和正は、兄以上にいじましい存在です。

現実にも多い?人間不信のイケメン王子様

 本作の王子様たちはテレパスですが、ちょっと察しが良くて、それゆえ人間不信に陥っている王子様というのは、現実にも結構いるような気がします。
「俺のことをみんな見た目やスペックで判断する。誰も人間として見てくれない」みたいなことを考えたり、「どうせ俺の金が目当てなんだろ?」と思ってしまって、うまく恋愛できない王子様こそ、本作を読んで、「真にいい女とは何か」について考えたらいいんじゃないでしょうか。

 見た目より何より大切なのは、自分を和ませてくれる妙な特技(笑)。そう考える王子様が増えれば、世の中はもっとカラフルになる……はずです!

Text/トミヤマユキコ

次回は<「頼もしい」男とは体格や経済力の高さではないことを証明する『3月のライオン』>です。
藤井聡太四段の躍進からも、最近何かと話題の将棋。そのブームの影なる火付け役ともいえる、長寿漫画『3月のライオン』はご存知ですか? 名作『ハチミツとクローバー』を手がけた羽海野チカさんが描く男性キャラは、とにかく愛くるしい! この機会に「非イケメン」なヒーローを推してみませんか?

ライタープロフィール

トミヤマユキコ
ライター・研究者。早稲田大学非常勤講師。
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