いい大人の不器用さが“恋の旨味”だと再認識する『椿町ロンリープラネット』

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。
 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

少女マンガの可能性をワンランクあげた
『椿町ロンリープラネット』

 アラフォーになった頃から、「近い将来、制服ヒロインものにグッとこなくなるのではないか」と考えるようになった。
中学生や高校生のヒロインがあまりにも若くて、恋愛に対してもピュアすぎるために、「あとは若いひと同士でごゆっくり(そそくさ)」みたいになってしまいそうで怖かったのである。
いつ来るとも知れない少女マンガ卒業の瞬間を想像するとすごく悲しかった。大人女子マンガはもちろん好きだけど、少女マンガがすっかり過去のものになってしまって、全く萌えられない余生を過ごさなきゃいけないなんて、なんだかつまらないではないか。

 が、そんなものは杞憂だった。少女マンガを舐めるなよという話であった。アラフォーも余裕で萌える制服ヒロインものが、ちゃんとある。やまもり三香『椿町ロンリープラネット』。
制服ヒロインがいて、王子様や当て馬もいて、ある意味王道の設定なのだが、決して懐古趣味的ではなく、むしろ王道の設定を使って少女マンガの表現を前進させてゆくような意欲作。そして、新しい巻が出る度にキュンキュンさせてくれる。この殺傷能力はすごい。みんなにも読んでもらいたい。

ワーカホリックな男女の初めての恋

 ヒロインの「大野ふみ」は16歳の高校生。母とは幼くして死別し、父とつつましく二人暮らしをしていたのだが、ある日、父に600万の借金があると発覚。借金返済のため、父はマグロ漁船に乗ることを決める。とんだダメ親父である。
ふみはどうにか高校退学は免れたものの、住んでいたアパートは引き払うしかなくなってしまった。

 完全に孤児状態になったふみは、住み込みの家政婦として働くことに。勤め先は、時代小説家「木曳野暁」の自宅だ。この職業に、この名前。どう考えてもおじいちゃんだろうと思っていると、なんと黒髪のどイケメンが現れる。うろたえるふみ。しかし、暁もびっくりしている。なぜなら、ふみという名のおばあちゃんがやってくると思っていたから。

「小娘じゃねえか/めんどくせぇ」……暁のテンションは低い。でも、ふみにしょげている暇はない。ちょっとでも稼いで、節約して、借金返済の足しにしなければ。それにもう、実家がないのだから、ここでがんばるしかないのである。
制服ヒロインなんだけど、労働不可避。この条件が、ふみを単なる小娘の立場から救いだしている。若いけれど、ちゃんと働いている彼女には、年齢に関係なく共感できる。だって、わたしもあなたも同じ労働系女子だもの。