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  • 2017.10.19

尊敬できる女、A子さんこそ“天然モテ”なのだ『A子さんの恋人』

ハッと振り返ってしまうほどの男前モテ男子「A太郎」と、理知的で意地悪いのに恋人のことを甘やかしてくれる「A君」、ふたりの恋人の間でゆれるのは一見モテ要素とは程遠い地味で普通なA子さん。彼女が求愛を受けるのは尊敬できるからこそ!?地味女子に学ぶモテの極意とは…。

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃ーいつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

難攻不落な王子様にハマってはいけない
『A子さんの恋人』

トミヤマユキコ推せる!マンガの王子さまA子さんの恋人
『A子さんの恋人』1巻/近藤 聡乃(著)KADOKAWA/エンターブレイン

 大人と呼ばれる年齢になってみて、ひとつわかったことがある。それは、大人の中身が案外、子どもじみているということ。

 落ち着きなんて全然ないし、些細なことでいつまでも落ち込むし、下らないことでいまだに笑える。「わたくし立派な大人でございます!」という顔をしている大人のほとんどが、実は図体のでかい子どもに過ぎないのだ。
でも、それが世の常なのかと思うと、なんだか可笑しくなってくる。もっと楽しんでやれ、フザけてやれ、という悪戯心が湧いてくる。大人ぶるのがバカバカしくなってくる。

 近藤聡乃・著『A子さんの恋人』は、大人ぶることをはなから放棄しているような、たいへん愉快な人々の織りなす物語である。
登場人物たちのほとんどが美大出身者で構成されており、世の中の常識よりも己の感覚を優先するようなところがあって、「人生楽しいだろうなこの人たち」と思わずにはいられない。

 主人公の「A子」は、美大を出たあと、プロのマンガ家として活躍しているアラサー女子。彼女は、恋人である「A太郎」にはっきり別れを告げないままニューヨークに行き、そこでアメリカ人の彼氏「A君」ができたものの、今度はA君からのプロポーズにうまく答えられないまま、ひとまず日本に帰国した。
日本とアメリカ、ふたりの男の間を右往左往するA子は、少女漫画によくあるような典型的なモテ女かと思いきや、実際は、優柔不断な地味女子と言ったほうが近い。大親友のK子でさえ「なんで?/なんであんな女に/男がふたりもいるのに/私にはいなんだろう?」と言っちゃうくらい、モテ感がない女。それがA子である。

モテ感がないのになぜ愛されるか

 だが、ふたりの彼氏から見たA子はまったく違っている。
まず、自ら「市井の男前」を名乗り、出会う人をみんなメロメロにしてしまうA太郎は、平気で浮気をするような男のくせに、A子のことはいつも特別視している。

 「君は僕のことそんなに好きじゃないから」好きなんだと語るA太郎を見ていると、モテすぎる男には、まあそういうこともあるかな、見た目で判断されてすぐ惚れられるのもなかなか辛いよね、と思ったりもするが、本当にそれだけでいいなら、他の人でもいいはずだ。男にのめり込まないタイプなら、とりあえず合格なんだから。

 おそらく、A太郎の本音は「僕は/君みたいになりたいんだよ」という言葉に表れている。淡々と自分の人生を前に進めてゆくA子の人生に、A太郎は憧れているし、「君が好き」「君を愛してる」なんて言葉よりも「君みたいになりたい」はずっとずっと思いが強い。そこには男女であることを超えた、人間としての尊敬の念がある。だからA太郎は、3年間も自分を放っておいたA子をいまだに好きでいるのだろう。
可愛い子、美人な子、心の綺麗な子……魅力的な子はいっぱいいる。でも「なりたい」と思える子はそうそういるもんじゃない。だからA太郎は彼女にこだわるのだ。

 一方、ニューヨークのA君は、理知的すぎるというか、底意地が悪いというか、見る人によってはとっつきにくい印象を与える男であり、A太郎とは真逆のタイプである。しかし、A子に対しては特技の「甘やかし」を発動し、とにかく彼女が快適に過ごせるように、というか、油断するように仕向けるのを喜びとしている。彼は、恋人の目をあまり意識せず自由にふるまっているA子を見るのが好きなのだ。
 
 じゃあ、A君がA子をお姫様扱いしているだけかというと、そんなことはない。フリーの翻訳者である彼は、A子とはクリエイター同士であり、彼女の仕事ぶりを「真摯」「そういうところ/いいとおもいます」と評価している。 先ほども述べたように、A子は淡々としてはいるけれど、その分着実に前進してゆくタイプ。粘り強く仕事に取り組むその姿勢を、A君は心密かに尊敬しているのだ。

「天然のモテ」だからA子に嫉妬しまう私たち

 A太郎もそうだったが、A君もまたA子に対し尊敬の念を抱いている。つまり彼らふたりは、「尊敬できる女を愛したい王子様」なのだ。
地味でも、優柔不断でも、尊敬ポイントがあれば愛されるということは、女子にとって希望かもしれない。が、尊敬されるのが実は一番むずかしいのではないか。他人が自分のどこを尊敬するかなんて予測できないし、尊敬されたいからとがんばりすぎるのは、はっきり言ってイタい。あくまで本人は無意識、無自覚なのに尊敬されてしまうというミラクルが起こらなければ、A子のようにはなれない。

 ふたりの王子様は、好かれようと思えば思うほど、遠ざかっていってしまう、なんとも女子泣かせの王子様である。
実際、作中にA太郎のことが大好きな女「あいこ」が登場するが、A太郎は一ミリも興味を示さないし、A君も、家に招いた女「ブリトニー」が超わかりやすいアプローチをしてきたにも関わらず、帰宅させている。いやー、難攻不落! 好かれる分には構わないが、好きになったら地獄である。

 いずれおとらぬ好男子だが、素人がうかつにハマってはならない。遠くから見ているのが吉……そういう王子様もいるのだ。そして、そんな王子様に惚れられたA子が心底羨ましい。なぜって、これこそが「天然のモテ」だと思うから!


Text/トミヤマユキコ

次回は<トミヤマユキコさんが一番推したい王子様『関根くんの恋』>です。
AM読者のみなさんに「このマンガの王子さまステキだよ!」と推すトミヤマユキコさんの連載。今回はついに、トミヤマさんが個人的に一番好きな王子さまをおすすめします!第3回ananマンガ大賞を受賞した、河内遙『関根くんの恋』(単行本全5巻)の主人公、関根圭一郎の魅力とは?

ライタープロフィール

トミヤマユキコ
ライター・研究者。早稲田大学非常勤講師。
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