画業50周年の大和和紀先生代表作『はいからさんが通る』を存分に語ろう

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃――いつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

愛することより生きること
今もなお語り継がれる『はいからさんが通る』

 2016年は、大和和紀先生の画業50周年にあたる年である。それを記念して、弥生美術館で展覧会が開催されたり(12月24日(日)迄やってます!)、『はいからさんが通る』が宝塚で上演されたり、劇場版アニメーションになったりした。つまり去年から今年にかけて、大和ファンは完全なるお祭り状態なのである。ちなみにわたしは宝塚のチケットが取れなくて泣いた(関係者のみなさまお願いですから再演してくださいませ)。

 大和作品に名作数あれど、やはり避けて通れないのが『はいからさんが通る』。大正時代の女学生「紅緒」が、陸軍少尉の「忍」といきなり引き合わされ、祖父母の代から決まっていた婚約者なのだと告げられ、花嫁修業をさせられる。しかし、彼女はいわゆる「新しい女」としての自意識をしっかり持った女の子。誰かが決めた結婚なんて、古くさくってお話にならない! と反発するものの、忍の人となりを知るうちにだんだん気持ちが変化してきて……というようなストーリーである。

 実際に読んでいただくとわかるのだが、少女マンガ界屈指の恋愛物語として名高い本作の中で、甘~い恋愛を描く時間は、意外なほど短い。忍が戦争に行ってしまうと、紅緒はすぐ出版社に就職。雑誌記者としてバリバリ働き、忍の代わりに家計を支えるようになる。そこで編集長の「冬星」と出会い、彼とは最終的に結婚を決意するところまで行くが、それだって、紅緒が忍をふっきったり、冬星が母親から仕掛けられた政略結婚を退けたりと、決して順風満帆ではない。
愛することより生きること。そういう優先順位だからこそ、愛のスパークが見る者の心に刺さるのだ。

 で、そんな『はいからさん』の永遠のテーマと言えば、やはり忍と冬星のどちらがいい男なのか? ということである。
わたしは大学の授業で『はいからさん』を紹介することがあるが、訊いてもないのにみんなどっち派か教えてくれる(笑)。みんなどうしたって考えてしまうのだよね、わかる、わかるよ……。