弱さを認める素直さこそ、王子たちの美しい特質

 王子様・忍か、当て馬・冬星か。どちらも魅力的だが、わたしには、彼らがいずれも「か弱い存在」に見える。というのも、華族の家に生まれた忍も、銀行家の長男である冬星も、「家」に縛られた男だから。イケメンだし、職業人としても優秀だが、ふたりとも好きな場所で好きなように生きることが許されないおぼっちゃまなのだ。ついでに書いておくと、紅緒の幼馴染「蘭丸」も歌舞伎役者であり、これまた「家」が大事なことは言うまでもない。
紅緒を愛する男たちは、ちゃんとした大人の男のように見えて、実はみんな「家」のしきたりに組み敷かれ、身動きが取れずにいるのである。ね、か弱いでしょう?

 そう考えると、このか弱いイケメン王子たちが、こぞって紅緒を選ぶのも納得だ。自分の力だけでは家の呪縛から逃れることはできないと思ったときに、このおてんば娘が自分を救ってくれる女勇者に見えたことは想像にかたくない。

 そして、ここが大変重要なポイントだと思うのだが、この王子様たちは、己のか弱さをちゃんと認めているのである。

「ぼくはね……きみが この家に新しい風をいれてくれる人だと信じてるんですよ/祖母もそしてぼくの父も自由な恋をして結婚することもできなかった……/そんな古いこの家のしきたりをやぶってくれるのがあなただとね……」

 これは忍の言葉だが、冬星も、「おれを助けてほしいんだ」「あんたでなきゃできないんだ」と紅緒に語っている。

 これだけの顔面偏差値、これだけのスペックがありながら、「俺は君より弱い人間です」ということを女にちゃんと伝えられる男って、そういるもんじゃない。この素直さこそ、ふたりの王子様に共通する、美しき特質だ。わたしがふたりのどちらにも決められず、どうしても「箱推し」になってしまうのは、ふたりが同じくらい素直な王子様だからである。

 大学の教室では、昨今のドS系王子様ブームのあおりを受けてか、俺様ムード漂う冬星の人気が若干高いようだが、わたしには選べない。本当に選べない。選べなさすぎるので、車夫の牛五郎か、忍の元部下・鬼島で手を打ちたい。お世辞にも王子様とは呼べないような、粗野で無骨でたくましい男と一緒になるのも、案外悪くないと思う。

 王子様は遠くにありて思うもの。遠くからそっと見つめて、愛でているぐらいが、ちょうど良い距離感であるような気がしてならない。

Text/トミヤマユキコ