「恋に落ちる瞬間」を秘密にして恋に落ちないために/長井短

演劇モデル・長井短

パンパカパーン! 2月7日に、遂に! 念願の!小説集を出版することができました!『私は元気がありません』という本です。う、うれしい…。表題作の『私は元気がありません』と、昔Webマガジン『yomyom』に書いたエッセイを小説に書き換えた『ベストフレンド犬山』。そして2年前に雑誌『小説TRIPPER』に書いた『万引きの国』を収録しているよ。帯に書いていただいた『恋と友情、怒りと怠惰』って言葉が好きすぎて表札にしたい気分です。

今回は出版記念のコラムを展開したい! 恋、友情、怒り、怠惰。どれを取り上げようかしら。恋かな。というわけでテーマは「恋」の中で「恋に落ちる瞬間」に大決定! 性癖とも言えてしまいそうな私の落とし穴の話です。

秘密が好きすぎる

「好きなタイプは?」と聞かれると、ほとほと困る人生だった。んなもんはない。顔の好みを考えたくても、私の脳は人間の顔を覚える能力が異常にないから識別が難しいし、性格で言ったら「優しい」とか「楽しい」とかだ。こんなのは何も答えていないと同義なわけで、何度頭を抱えただろう。だけど、自分が恋に落ちる瞬間ならわかる。秘密だ。「秘密」「ひみつ」「ヒミツ」どの書き方でもグッとくる。字面だけで少し疼く。「ひ」と「つ」息の抜ける二つの音の真ん中に「み」っていうこもった音が入っているバランスからしてもう只事じゃない。言葉を考えた人にまず何かしらの賞をあげたい。

秘密は、どんな些細なことでもいい。出来事の大小に関わらず、私は秘密にめっぽう弱い人間である。例えば仕事からの帰り道。たまたま電車が同じあの人と、話の流れでなんとなく飲みに行くこと。これも立派な秘密だ。いかがわしい何かが起きていなくても「みんなには真っ直ぐ帰ったと思われている」という事実の前で、ちょっとした寄り道は秘密になる。あの人が夢に出てきたことも、あの人についての秘密になる。私の夢に出ちゃってるなんて、あの人もこの人も知らないのだから。私に消しゴムを貸してくれたことも秘密。二人で歩いている時に財布を拾ったことも秘密。それを警察に届けたことも秘密。秘密の判定が甘すぎる気はするけれど、私はすぐに、出来事を秘密と感じてしまうのだった。

自分が「秘密に弱い」ってことをきちんと認識したのはごくごく最近のことだけれど、たぶん意識の外で感じていたんだろう。第六感ってやつかもしれない。帰り道にコンビニで缶ビール買って一本だけ飲んだことも、流れ星を見てしまったことも、雨宿りしたことも。もっとちんけなことでもいい。「最近〇〇さんとよくLINEする」とか「よく目が合う」「なんか手が綺麗って思った」感想ですら、他者に話さなければ、結果として秘密になる。「秘密」として行われたわけじゃない出来事、私の勝手なぼやきすらも「共有しない」って段階を経ればたちまち秘密。景色は色合いを変える。そうしてすぐに、恋まで育つ。

だから、あえてなんでも喋ってきた。きっと誰も興味がない「昨日夢に〇〇さんが出てきた」って話を何度したかわからない。次の日の職場で「昨日帰り二人で飲んだんだよー!」と笑顔で話す私に向けられる、少しがっかりしたような視線。私だって自分にがっかりだよ!

本当は話したくなんかない。そもそも誰も興味ないだろうし、うるさいし、なんか色気がないし。話さずにいた方が熟すことくらいわかっている。でも、熟れ方が常人のペースじゃないんですよ、マジで、お前のことしか考えられなくなるんですよ。夢にレギュラー出演で、勝手に秘密が増えてっちゃうんですよ。不用意に「恋に落ちたくない」って自分を守るのは、そこに弱さがあるからだ。心拍がEDM、血液が泡立てば、私は何も考えられなくなる。あなたと、もっと大きな秘密を作ることにしか興味が持てなくなる。そういう自分のいやらしさをわかっているから何でもかんでも喋ってきた。本とかいっぱい読みたいので。あなたのことばかり考えてたら私、頭がおかしくなっちゃうので。