自動秘密生成マシーン

秘密を作ったらおしまい。でも秘密は、そこら中に転がっている。いとも簡単に手にできてしまう。不思議とよくぶつかる視線も、毎朝すれ違うことも、たまたま同じガムを持ち歩いていることも、秘密にできる。物事が秘密になるか否かはつまり、自分次第なのだ。全部私の認識次第。絶対に落ちたくない穴が無数に私を待っていて困る、なんて思っていたけれど、穴を掘っているのは私自身で、私が私を恋に誘っていた。

ついこの間も電車の中で、何度も目が合うサラリーマンに頬を染めかけたのだけど、あれは別に、あのサラリーマンがどうこうとかでは決してなく、私が「この電車の中で何度も目があっていることを私たち以外誰も知らない=秘密」と認識したせいだったのだ。ちょろすぎでは? そしてバカすぎでは? バカすぎついでにもう一つ告白すると、公共の場で真面目な顔してpixiv見ている時とかも、自分で自分に興奮しかけてしまったりする。「まさか私が今、pixivで二次創作にダイブしているとは思うまい…」とか思うと、血はすぐ泡立つ。バカだろこんな人間。だけど、どうしようもない性なのだ。

正直今「こんなこと書いて大丈夫か? 普通に変態だと思われるのでは?」って冷や汗をかいているけれど、書かない=秘密であって、興奮の基礎代謝が上がってしまうわけじゃないですか。だからもう、私は全部言うしかないんだよ。秘密に背後取られたらおしまいなので、全て話さないといけないんです。

今より若い頃、疑われてもないのに彼氏に浮気を告白したり、むしろ疑われるようにバレバレの嘘をついたりしてしまったことがあったんだけど、たぶんあれも同じ構造だ。

「浮気をしたことを隠す=浮気相手と秘密を持つ」
「浮気したことを話す=浮気相手は彼氏に話しているなんて思っていない=彼氏と秘密を持つ」

こういう式だったんですね、今自分でも理解しました。秘密が生まれたら、秘密を好きになってしまうから。彼氏を好きでい続けるために、っていうか彼氏が好きだから、彼氏の方に秘密の軸を置くために、絶対に聞きたくないはずの告白をしていた。あまりにも自分本位で申し訳ない。ごめんなさい。

秘密って、どうしてこんなに魅力的なのだろう。私はまだそこに手を伸ばせていない。「秘密が好きである」ってことにようやく指先が触れたところ。だから次に書く小説は、もっと秘密を解剖したい。スパイとか秘書とかがセクシーな役として描かれがちなのもやっぱり、秘密を担うお仕事だからなのかしら。市役所の人が時折ものすごく色っぽく見えるのも、うららかな午後の受付に座ってるくせにめちゃくちゃ個人情報を握ってるからなのかしら。だったら、最も秘密の少ない仕事はなんだろう。通訳さんとか? スポーツ選手も少なそう。医者もある意味秘密は少なかったりして。あぁだけど、誰もが秘密を持てる世界の中で「この人にだけは秘密を持てない」って関係性もトゥンクなわけで…。

「恋と友情、怒りと怠惰」ここに「倫理と欲望」も付け加えられるような小説を次作にしたい。

TEXT/長井短

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