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  • 2016.09.10

オダギリジョー×蒼井優!人生で活躍できない男女の映画『オーバー・フェンス』

離婚をして故郷に戻り、目的もなくただ漫然と暮らす白岩。ある日、職業訓練校の仲間に誘われたキャバクラで、鳥の動きを真似る風変わりな女・聡に出会う——。オダギリジョー×蒼井優で描く静かな“再起”のドラマ。

たけうちんぐ オーバー・フェンス オダギリジョー
©2016「オーバー・フェンス」製作委員会

 ヒーローもヒロインもいない。よく映画で描かれる、都合よく現れて都合よく活躍するキャラクター。120分の枠に収まる起承転結。そんなものは残念ながら現実に存在しない。
これは人生において何一つ活躍できないでいる男女の物語。見えない檻に閉じ込められて、日々の楽しみもなく“ただ生きている”姿を愛おしく、時に突き放して映し続ける。

 オダギリジョー、蒼井優、松田翔太らが顔を揃え、佐藤泰志の小説を『リンダ リンダ リンダ』、『松ヶ根乱射事件』の山下敦弘監督が映画化。『海炭市叙景』、『そこのみにて光輝く』に続く「函館3部作」の最終章として、行き場をなくした男女の“停滞”するラブストーリーを描く。

明確な目的地がなく、ただ傷つきながら進んでいく

たけうちんぐ オーバー・フェンス オダギリジョー
©2016「オーバー・フェンス」製作委員会

 何のために生きているか。生きることに意味はあるのか――。
そんな答えを一切見出せない男女がいる。引越しの段ボールもまだ片付けられず、部屋には何もない。人とは距離を置き、何の楽しみもなく空っぽに過ごす。ただ死ぬために生きている。大して笑うことも泣くこともない。だからといって絶望感に浸るわけでもない。そんな白岩(オダギリジョー)の“再起”は恐ろしいくらいに停滞しながら進み、似た者同士のキャバクラで働くホステス・聡(蒼井優)が彼に寄り添っていく。

 失業後の職業訓練校では一際落ち着いていて、代島と森が口を揃える通り“まとも”な白岩。だけど、唯一大人げない部分がある。それは、いつまでも指輪を外せないでいること。前妻と娘との現状に目を背け、僅かながらに可能性を感じてしまっている薬指が痛々しい。どうやらその心の傷は、ホステスの聡にもすぐに見破られたようだ。
同じ匂いがする。同じ傷を背負っている。“まとも”な白岩と、感情の赴くままに行動する聡とは対照的に思えるが、どこか似たような過去を背負っているから、二人の距離が近づいていくのはごく自然に思える。

飛び立とうとも、飛び立つ空がない。でも……

たけうちんぐ オーバー・フェンス オダギリジョー 蒼井優
©2016「オーバー・フェンス」製作委員会

 聡の過去に一体何があったのか。何を抱えて生きているのか。本作では多くは語られない。
聡は“鳥の求愛ダンス”を街角で、もしくはキャバクラで、人目もはばからず踊り狂う。感情の浮き沈みが激しい彼女を、メンヘラ女と見てしまう人だっているかもしれない。

 でも、過去に何を抱えて生きているかなんて一目見ただけでは分からない。だから観客も、「そんな目で見ないで!」と聡に拒まれる白岩と同じ“そんな目”をしてしまう。窓ガラスを割って激しく憤る聡の気持ちが分からない。スクリーンを“そんな目”で見てしまうのがもどかしくてしょうがない。
知ろうとすればするほど、相手を傷つけてしまう。白岩と聡の関係は何も特別なことではなく、人と人とが結びつくことにおいて普遍的なことのように思う。

 二人は檻から放されても飛び立てない鳥だ。飛び立とうとも飛び立つ空がない。球を打とうとも飛び越える柵がない。でも、物語は二人に冷たくない。白岩は前妻に会い、聡はそれを見つめ、その停滞がほんの少しずつ動き出す。小さなグラウンドに希望の光が差し込むクライマックスは、彼らと同じように目的もなく“ただ生きている”人々の背中を押してくれるだろう。
 
 ヒーローやヒロインなど立派な人間だけを描くのが映画だとしたら、とても窮屈だ。それは“人間”じゃない。ダメでどうしようもないからこそ愛おしく、自分を見ているようになるからこそ共感する。
ホームランとファウルは似ている。成功も失敗もなく、フェンスを飛び越えることができない日々を愛せるかどうか。
ただ生きているだけでもいいじゃないか。白岩と聡を見ていると、そう思えてくる。

ストーリー

 家庭を顧みずに離婚した白岩(オダギリジョー)は、東京から故郷・函館に帰ってくる。実家に顔を出すこともなく、失業保険を受けながら職業訓練校に通う日々が続く。
ある日、同じ訓練校に通う代島(松田翔太)からキャバクラに誘われた白岩は、そこで風変わりなホステス・聡(蒼井優)に出会う。
“鳥の求愛ダンス”で踊り狂い、感情の起伏が激しくてどこか危うい聡に強く惹かれていく。

9月17日(土)、テアトル新宿ほか全国ロードショー

監督:山下敦弘
原作:佐藤泰志「オーバー・フェンス」(小学館刊「黄金の服」所収)
キャスト:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介、松澤匠、鈴木常吉、優香
配給:東京テアトル /函館シネマアイリス(北海道地区)
2016年/日本映画/112分
URL:『オーバー・フェンス』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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