オダギリジョー×蒼井優!人生で活躍できない男女の映画『オーバー・フェンス』

たけうちんぐ オーバー・フェンス オダギリジョー 2016「オーバー・フェンス」製作委員会

 ヒーローもヒロインもいない。よく映画で描かれる、都合よく現れて都合よく活躍するキャラクター。120分の枠に収まる起承転結。そんなものは残念ながら現実に存在しない。
これは人生において何一つ活躍できないでいる男女の物語。見えない檻に閉じ込められて、日々の楽しみもなく“ただ生きている”姿を愛おしく、時に突き放して映し続ける。

 オダギリジョー、蒼井優、松田翔太らが顔を揃え、佐藤泰志の小説を『リンダ リンダ リンダ』、『松ヶ根乱射事件』の山下敦弘監督が映画化。『海炭市叙景』、『そこのみにて光輝く』に続く「函館3部作」の最終章として、行き場をなくした男女の“停滞”するラブストーリーを描く。

明確な目的地がなく、ただ傷つきながら進んでいく

たけうちんぐ オーバー・フェンス オダギリジョー 2016「オーバー・フェンス」製作委員会

 何のために生きているか。生きることに意味はあるのか――。
そんな答えを一切見出せない男女がいる。引越しの段ボールもまだ片付けられず、部屋には何もない。人とは距離を置き、何の楽しみもなく空っぽに過ごす。ただ死ぬために生きている。大して笑うことも泣くこともない。だからといって絶望感に浸るわけでもない。そんな白岩(オダギリジョー)の“再起”は恐ろしいくらいに停滞しながら進み、似た者同士のキャバクラで働くホステス・聡(蒼井優)が彼に寄り添っていく。

 失業後の職業訓練校では一際落ち着いていて、代島と森が口を揃える通り“まとも”な白岩。だけど、唯一大人げない部分がある。それは、いつまでも指輪を外せないでいること。前妻と娘との現状に目を背け、僅かながらに可能性を感じてしまっている薬指が痛々しい。どうやらその心の傷は、ホステスの聡にもすぐに見破られたようだ。
同じ匂いがする。同じ傷を背負っている。“まとも”な白岩と、感情の赴くままに行動する聡とは対照的に思えるが、どこか似たような過去を背負っているから、二人の距離が近づいていくのはごく自然に思える。