私にキャバクラを辞めさせた「女性らしい女性」という刷り込み

“普通”なキャバクラバイトで劇的ななにかを待っていた

大泉りか 人妻は不倫の夢を見るか? Valentin Ottone

キャバクラでアルバイトをして、わたしが知ったことと言えば、「自分はあんまりモテない」ということでした。
しかし、お店に来る男性客たちに「モテたい」という欲はなかったし、稼ぎも最低限の時給だけ貰えればいいと思っていたので、あまり気にせず、「たまには同伴しろ」だとか「指名を取ってよ」だとかフロアの男性に注意されつつも、『ヘルプ』と呼ばれる週2日~3日くらいの出勤で、気楽にキャバ嬢を続けていました。

しかし、キャバクラのバイトはあまり“普通”でした。高校時代に受けた、デートクラブや援助交際やブルセラの洗礼。
それに比べると、キャバクラのバイトは、一応、親には秘密にしていたものの、あまりに刺激が少なく感じました。

といっても、それはわたしの実力のせいもあったと思います。
店は違いましたが、やはりキャバクラでアルバイトをしている同級生のひとりに、水商売が天職といってもいいほどに向いている友達がいました。彼女も、大学入学と同時にキャバクラに勤め始め、夏が来るまでには、余裕で店の上位に売り上げを叩き出し、あっという間に時給は一万円オーバー。
当然、そんな彼女につく客は、なんとかコンサルティングやら、なんとかプロデューサーやらと、得体のしれない金持ちがわんさか。同伴やらアフターやら貢物やらで、あっと今に別世界に行ってしまったように見える彼女を見て、「羨ましい」と思ったのは事実です。

贅沢な世界が観れて羨ましいというのももちろんありましたが、それ以上に、自分の力だけでは知ることの出来ない世界に触れられることを羨む気持ちが強かった。スタートは同じはずなのに、結果、得ることが出来ているものはまるで違う。
これが世の中の道理であると理解しながらも、それでも、自分にもいつか「人生を変える劇的ななにかが訪れるのではないか」と、どこかで期待しながら、わたしは最低時給のホステスを続けていたのです。