あの人の秘密ってなんだろう?とざわつかせるもの

脳科学者・中野信子インタビュー

――自己演出の感覚がわかったとして、ただその際の表情ひとつにしても、色気のありなしって出てきますよね。

中野

そうですね。例えば、「不協和音」って、あのバラバラとした統一感のない音にムズムズして、なんとか調和させたい、解決したい、思うじゃないですか。藤あや子さんってすごく素敵な笑顔をされますが、どことなく「あれ?本心で笑ってるのかな?」と、不協和音のように心に残って落ち着かない。それが彼女の魅力であり、「コミットしたくなる」要素なのかなと思います。

――満面の笑顔にあんまり色気って感じないですよね。

中野

梅沢富美男さんも普段は明るいおじさまですが、ひとたびメイクして舞台に立たれると、くっと色香がたつ。おそらく、藤さんと同じく、あの独特な目線の動きとか半開きな口元から、あの人は何を考えて、どんな秘密を持っているんだろう? というような気持ちが喚起されて、そそられるんだと思います。
モナリザもそうですよね。笑っているか笑っていないかわからない顔だから、ずっと人を魅了し続けている。色気の有り無しの境目のひとつは、調和しきらないものということ、といえるでしょうか。だとすれば、やっぱり色気は、生まれつきでもなく顔立ちも関係なく、どんな人でも持つことができるものなのではないか、と考えられますね。

――ちなみに、不協和音のようなものに、ざわっと波風がたつのは、実際に脳が何かしらの影響を受けているからでしょうか。

中野

前頭葉の右脳と左脳の間にある壁にACC(Anterior cingulated cortex)という場所があるのですが、ここが矛盾や痛み、違和感を覚えたときに活動します。先ほどの「この人、笑顔だけどもしかして…」といったモヤモヤは、ACCが反応しているということになりますね。

――では、男性と女性で色気の捉え方が違う、ということはありますか。

中野

思いつく限りではなさそうですね。美人とか、感じがいいとかは人それぞれ好みがあるので違うでしょうけど、色気があるって思う人は、男女共通ではないでしょうか。
ブルカ(※イスラム教徒の女性が使用するヴェール)を被っていて、何も情報がなくても視線だけで色気を醸し出す女性がいます。一方で、黒い手袋をして口元をあえて隠すようなポーズをとった羽生結弦選手の視線の色気に圧倒されたファンは多いでしょう。
男女どちらかの性別の違いや見た目はやはり関係なく、「この人をもっと知りたい」と思わせることが色気を演出するためには大切なんでしょうね。

――知りたいなって思わせるには、自分自身に色々な要素をもってないとだめですね。

中野

その点でいうと、マツコ・デラックスさんもお上手ですよね。もちろん発言のひとつひとつはすごく面白いんですけど、どうしても目でおってしまう独特の魅力の秘密がひとつあるんですよ。それは、いつも不機嫌そうでいること。

――あっ、たしかに!

中野

でも、最後はちゃんと寛容に振る舞うんですよ。つまり、めちゃくちゃ不協和音から始まって、最後はちゃんと終止形がある音楽のような構造を常に作っている。私たちはそこに魅力を感じているんですよね。もちろん仕事を円滑に進めるには、感じよくて笑顔のほうがいいんですけど、こと色気に関しては参考になると思います。

中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者。東日本国際大学教授。
1975年東京都生まれ。科学の視点から人間社会で起こりうる現象、および人物を読み解く語り口に定評がある。著書に『世界で活躍する脳科学者が教える! 世界で通用する人がいつもやっていること』(アスコム)、『サイコパス』(文春新書)、『シャーデンフロイデ』(幻冬舎)ほか多数。

初出:2018.04.12