色気の演出には「この人をもっと知りたい」と思わせること/脳科学者・中野信子さん(前編)

男女問わず、色気のある人に魅了される私たち。
そんな魅力ある人たちを見て、「私も色気がほしいな」と思いながらも、「色気」が一体どういうものか言語化することも、目に見える基準があるわけでもありません。

では、脳はどのように「色気」を認知しているのか、男女で認知に差があるのかを、脳科学者の中野信子さんに伺いました。

色気とは「コミットしたい」気持ちをそそるもの

脳科学者・中野信子インタビュー

――私たちは「あの人色気あるよね」とか、色気についてだいたいの共通認識を持っているはずなのに、何に色気を感じているのかはうまく言語化ができません。そもそも、脳は色気をどうやって認識しているのか、男女で捉え方は異なるのか。疑問が尽きず、本日は中野さんにお話を伺いにきました。

中野信子さん(以下、中野)

色気を英語で言うと「セクシー」になるでしょうか。セクシーというのも面白い表現で、大学院の時の指導教官が、口酸っぱく言ってたんです。「論文のタイトルはセクシーに書け」「セクシーな論文じゃなきゃどんなに良い内容でも読まれないよ」って。
たしかにきちっとした論文って丁寧で誠実に書いてあるのですけど、どこかそそられない。仕事の企画書とも同じだと思いますが、読んでみたい、やってみたい、と興味を持ってもらうことが重要ですよね。そう考えると、色気の正体が見えてきそうですね。

――感覚としてすごくよくわかります。「セクシー」を定義づける研究等は存在するのでしょうか。

中野

さすがに文化間差が出てしまうので、ダイレクトな研究はありません。ただ、セクシーの本質には、多くの人が感じ取るトリガーのようなものがあるはずです。それは、「魅力的である」ことはもちろん、「コミットしたい」気持ちをそそること、だと思います。

――たしかに、顔が整っているからといって、全員がセクシーにはならない気がします。

中野

魅力的できれいなものに関する実験はいくつかあります。単純であって対称性が高く、認知しやすいもの、人間の顔であれば「笑顔」がよいとされています。ただ、「コミットしたい」となるには、必ずしも美人である必要はありません。距離の近さを感じさせたり、逆に少しミステリアスにふるまったり、演出が効くところだと思いますよ。認知しやすい、のことをもう少し専門的な言い方では「認知負荷が低い」といいますが、認知負荷をうまく下げられるかどうかは、「色気がある人」の理由に深く関わっていると思います。

――相手から自分への認知負荷を下げるためには、どんなことをしたらいいでしょう?

中野

まずは、自分がどう見られているかを認識する必要があります。カウンセリング現場でも、自分の見え方を考えてみるトレーニングがあるのですが、そういう視点を意識するだけで、自分のハードルが低いのか高いのか認識しやすくなります。
低すぎるなと感じたら引き締めて、高すぎるなって感じたら下げてみるというように。三面鏡を使って正面からも横からも、自分がどういう表情をしているかじっくり研究するのも大切でしょう。最近だったら自撮りも、自己演出するための訓練になると思いますよ。