• special
  • 2018.04.12

色気の演出には「この人をもっと知りたい」と思わせること/脳科学者・中野信子さん(前編)

「色気」とは?脳はどのように認知しているの?「色気」がある人になるためには?男女で「色気」の感じ方は違うの?よく考えてみると分からない様々な疑問を、脳科学者・医学博士・認知科学者の中野信子先生に伺いました。

 男女問わず、色気のある人に魅了される私たち。
そんな魅力ある人たちを見て、「私も色気がほしいな」と思いながらも、「色気」が一体どういうものか言語化することも、目に見える基準があるわけでもありません。

 では、脳はどのように「色気」を認知しているのか、男女で認知に差があるのかを、脳科学者の中野信子さんに伺いました。

色気とは「コミットしたい」気持ちをそそるもの

脳科学者の中野信子さん

――私たちは「あの人色気あるよね」とか、色気についてだいたいの共通認識を持っているはずなのに、何に色気を感じているのかはうまく言語化ができません。そもそも、脳は色気をどうやって認識しているのか、男女で捉え方は異なるのか。疑問が尽きず、本日は中野さんにお話を伺いにきました。

色気を英語で言うと「セクシー」になるでしょうか。セクシーというのも面白い表現で、大学院の時の指導教官が、口酸っぱく言ってたんです。「論文のタイトルはセクシーに書け」「セクシーな論文じゃなきゃどんなに良い内容でも読まれないよ」って。
たしかにきちっとした論文って丁寧で誠実に書いてあるのですけど、どこかそそられない。仕事の企画書とも同じだと思いますが、読んでみたい、やってみたい、と興味を持ってもらうことが重要ですよね。そう考えると、色気の正体が見えてきそうですね。

――感覚としてすごくよくわかります。「セクシー」を定義づける研究等は存在するのでしょうか。

さすがに文化間差が出てしまうので、ダイレクトな研究はありません。ただ、セクシーの本質には、多くの人が感じ取るトリガーのようなものがあるはずです。それは、「魅力的である」ことはもちろん、「コミットしたい」気持ちをそそること、だと思います。

――たしかに、顔が整っているからといって、全員がセクシーにはならない気がします。

魅力的できれいなものに関する実験はいくつかあります。単純であって対称性が高く、認知しやすいもの、人間の顔であれば「笑顔」がよいとされています。
ただ、「コミットしたい」となるには、必ずしも美人である必要はありません。距離の近さを感じさせたり、逆に少しミステリアスにふるまったり、演出が効くところだと思いますよ。
認知しやすい、のことをもう少し専門的な言い方では「認知負荷が低い」といいますが、認知負荷をうまく下げられるかどうかは、「色気がある人」の理由に深く関わっていると思います。

――相手から自分への認知負荷を下げるためには、どんなことをしたらいいでしょう?

まずは、自分がどう見られているかを認識する必要があります。カウンセリング現場でも、自分の見え方を考えてみるトレーニングがあるのですが、そういう視点を意識するだけで、自分のハードルが低いのか高いのか認識しやすくなります。
低すぎるなと感じたら引き締めて、高すぎるなって感じたら下げてみるというように。三面鏡を使って正面からも横からも、自分がどういう表情をしているかじっくり研究するのも大切でしょう。最近だったら自撮りも、自己演出するための訓練になると思いますよ。

あの人の秘密ってなんだろう?とざわつかせるもの

脳科学者の中野信子さん

――自己演出の感覚がわかったとして、ただその際の表情ひとつにしても、色気のありなしって出てきますよね。

そうですね。例えば、「不協和音」って、あのバラバラとした統一感のない音にムズムズして、なんとか調和させたい、解決したい、思うじゃないですか。藤あや子さんってすごく素敵な笑顔をされますが、どことなく「あれ?本心で笑ってるのかな?」と、不協和音のように心に残って落ち着かない。それが彼女の魅力であり、「コミットしたくなる」要素なのかなと思います。

――満面の笑顔にあんまり色気って感じないですよね。

梅沢富美男さんも普段は明るいおじさまですが、ひとたびメイクして舞台に立たれると、くっと色香がたつ。おそらく、藤さんと同じく、あの独特な目線の動きとか半開きな口元から、あの人は何を考えて、どんな秘密を持っているんだろう? というような気持ちが喚起されて、そそられるんだと思います。モナリザもそうですよね。笑っているか笑っていないかわからない顔だから、ずっと人を魅了し続けている。
色気の有り無しの境目のひとつは、調和しきらないものということ、といえるでしょうか。

だとすれば、やっぱり色気は、生まれつきでもなく顔立ちも関係なく、どんな人でも持つことができるものなのではないか、と考えられますね。

――ちなみに、不協和音のようなものに、ざわっと波風がたつのは、実際に脳が何かしらの影響を受けているからでしょうか。

前頭葉の右脳と左脳の間にある壁にACC(Anterior cingulated cortex)という場所があるのですが、ここが矛盾や痛み、違和感を覚えたときに活動します。先ほどの「この人、笑顔だけどもしかして…」といったモヤモヤは、ACCが反応しているということになりますね。

――では、男性と女性で色気の捉え方が違う、ということはありますか。

思いつく限りではなさそうですね。美人とか、感じがいいとかは人それぞれ好みがあるので違うでしょうけど、色気があるって思う人は、男女共通ではないでしょうか。
ブルカ(※イスラム教徒の女性が使用するヴェール)を被っていて、何も情報がなくても視線だけで色気を醸し出す女性がいます。一方で、黒い手袋をして口元をあえて隠すようなポーズをとった羽生結弦選手の視線の色気に圧倒されたファンは多いでしょう。
男女どちらかの性別の違いや見た目はやはり関係なく、「この人をもっと知りたい」と思わせることが色気を演出するためには大切なんでしょうね。

――知りたいなって思わせるには、自分自身に色々な要素をもってないとだめですね。

その点でいうと、マツコ・デラックスさんもお上手ですよね。もちろん発言のひとつひとつはすごく面白いんですけど、どうしても目でおってしまう独特の魅力の秘密がひとつあるんですよ。それは、いつも不機嫌そうでいること。

――あっ、たしかに!

でも、最後はちゃんと寛容に振る舞うんですよ。つまり、めちゃくちゃ不協和音から始まって、最後はちゃんと終止形がある音楽のような構造を常に作っている。私たちはそこに魅力を感じているんですよね。
もちろん仕事を円滑に進めるには、感じよくて笑顔のほうがいいんですけど、こと色気に関しては参考になると思います。


【後編につづく】

中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者。東日本国際大学教授。
1975年東京都生まれ。科学の視点から人間社会で起こりうる現象、および人物を読み解く語り口に定評がある。著書に『世界で活躍する脳科学者が教える! 世界で通用する人がいつもやっていること』(アスコム)、『サイコパス』(文春新書)、『シャーデンフロイデ』(幻冬舎)ほか多数。

関連キーワード

今月の特集

AMのこぼれ話