震災とAV――女優になる人、女優として帰る人、アダルトビデオが映し出す「リアル」

阪神淡路大震災とAV

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 東日本大震災 阪神淡路大震災 熊本地震 sasint

 日本に生きるわれわれにとって「3.11」という数字が特別な意味を持つようになって、もうすぐ6年が経つ。あの出来事を風化させないために、今回は東日本大震災、および2016年4月14日の熊本地震を論じるが、やはり私は、AVと関連付けて話すしか術を持たない。

「震災とAV」……? いったい何の関係が……? と思いながらこのページを開いた方が大半だろう。しかし、少なくとも1995年の阪神淡路大震災のときから、すでに被災地で撮られた作品が現れている。

 藤木TDC『アダルトメディア・ランダムノート』(以下、引用はpp. 96-97)によれば、阪神淡路大震災をテーマとしたAVで最も早くリリースされたのはバクシーシ山下監督作品『18歳 中退してから…』だそうだ。内容は「避難所生活をしているらしい素人男優を探し出し、瓦礫の中でイケイケギャルとセックスさせるというもの」だったらしい。

 当時の審査団体である日本ビデオ倫理協会がこの作品に心痛したのか、震災をテーマにしたAVはどのような内容であろうと容認しない、という意向がメーカーに伝えられたと藤木は書いている。
「[バクシーシ山下監督らが所属した]V&Rプランニングは大地震の翌日には早くも現地入りしたと噂が広がったし、その後、ワレもワレもと群小の下請けプロダクションが神戸に殺到し」、「一部には売り上げの一部を義援金とすると宣言したメーカーもあ」ったが、日本ビデオ倫理協会の方針によりそれらの多くはリリースされなかった。

 また、阪神淡路大震災をテーマとしたAVのうち藤木が最重要作品として挙げているのは、高槻彰監督作品『風俗Walker 創刊号』。各地の特殊風俗地帯をルポしたオムニバスで、震災直後に営業再開した被災地のファッションヘルスのルポルタージュもその中にある。
ちなみに、東日本大震災の場合にも同様の例があり、その様子は小野一光『震災風俗嬢』に描かれている。

 今これを読んでいるみなさんがおそらく感じている「人が死んでる被災地でセックスだなんて不謹慎だ」という感覚は、きわめて常識的だ。私もおおむねそう思う。「ヤベえAVが撮りたい」というただそれだけの、しかも極めて凡庸な理由では、被災地をけがしたと言われても仕方あるまい。
しかし、風俗嬢に「どうしていいかわからない。人肌に触れないと正気でいられない」(『震災風俗嬢』p. 42)と述べる客の気持ちも、われわれはきっと理解できるはずだ。
被災地にも「性」は存在する。それを無理やり掘り起こして晒しあげる必要はないけれども、なかったことにするのが誤りだということは、まず間違いないのではないか。