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  • 2017.01.24

女性向けAVに挑戦した“鬼畜メーカー”の意図――若き日のしみけんと幻の作品

SILK LABOを擁するソフト・オン・デマンドより前にも、女性向けAVに挑戦した有名メーカーがありました。安達かおるが設立し、バクシーシ山下、カンパニー松尾などを育てたV&Rプランニングです。「ヤバい」ドキュメンタリー作品で有名なメーカーがなぜ女性向けAVを…?若い頃のしみけんにも注目です!

鬼畜AVメーカーV&Rプランニング

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 女性向けAV V&Rプランニング しみけん 南佳也
by ErnieXavier

 以前、「日本初の女性向けAVを探して」という記事を書いた。一言でいうと、日本で初めて女性向けAVが発売されたのは90年であるという指摘があるけれども、88年にすでに女性向けAVが作られていた、という話であった。
今回は、時計の針をもう少し進め、あるAVメーカーに注目して女性向けAV史を論じてみよう。

 そのメーカーの名は「V&Rプランニング」。
有名AV監督・安達かおるが立ち上げ、これまた有名AV監督のバクシーシ山下、カンパニー松尾などを育てたメーカーである。後者2人は、近年では『テレクラキャノンボール2013』でさらに有名になった。

 私の専門である社会学の世界で最も有名なV&R作品は、おそらくバクシーシ山下監督の『女犯2』である。
レイプものの作品なのだが、殴られたりゲロをかけられたりする女優があまりに本気で嫌がっているので「これは演技ではなく本物のレイプを撮ったのではないか?」とフェミニズム団体から猛バッシングを受けたのだ。

『封印されたアダルトビデオ』『セックス障害者たち』で監督本人が語るところによれば、ちゃんと女優に事前許可を取っていたらしい。しかし、騙されていたのはむしろ男優たちの方で、監督から「これ本物のレイプだから」と伝えられていたそうだ。そういう禁じ手的演出を行う「ヤバい」メーカーだった。
V&Rプランニングはほかにも、2008年には『ウンゲロミミズ』という衝撃的な作品を卯月妙子主演で撮り、カルト的人気を博すなどしている(彼女のことは号泣必至の傑作漫画『人間仮免中』でご存知の方もいるかもしれない)。

 なぜこんな、思わず顔をしかめるキッツい作品のことばかり話すのかというと、そんな「ヤバい」メーカーが比較的長いあいだ女性向け事業を行っていたという驚きを共有してほしいからである。

 レイプだのウンコだのを得意としていたメーカーが、女性のためにいったいどんな事業を展開していたのか?

バレないようにAVを見たい女性の願望

 V&Rプランニングは女性向け事業として、まず1998年6月1日に女性専用AV宅配サービス「Pandore」を開始した。「パンフレットから見たい作品を選び、あとは日時、時間を指定してもってきてもらうだけ」(『女性セブン』1999.4.29)というものである。

 1本のレンタル料は1週間で2000円(送・返料含む)で、2本目以降は500円。「V&Rで制作し、女性に人気がありそうな30本を厳選した」(『週刊大衆』1998.7.20)という。
かなり割高で、さらに「身分証明書のコピーが必要など手間がかかるため、『30~50人集まれば…』と考えていた」が、「1か月で会員100人、今では20代後半~30代前半の主婦or一人暮らしのOLを中心にその数、700人!」(『FLASH』1999.3.23)と想定を上回る人気があったようだ。
TSUTAYAなど大手レンタルショップでAVをレンタルしたほうが絶対に安いが、女性にとって「誰にもバレないようにAVを借りられる」ということにはそれだけの価値があった、ということだろう。なお『ガツン!』2001年8月9日号時点では、会員数は1500人にまで増えている。

 ちなみに、このときのレンタル上位作品は『盗撮オールナイト』、カンパニー松尾監督の『私を女優にしてください』シリーズ、それから『東京レイプMap』など。
カン松作品や盗撮モノが人気であることにはなるほどなと思うところもあるが(連載第2回「盗撮カメラとラブラブエッチ」参照)、女性が選ぶAVとはいえ、男性との嗜好の違いは、それほど大きくはないようだ。

女性にウケない女性向けAV

 だがその後、Pandoreは男性向け作品を女性に宅配するだけでなく、女性向けにオリジナル作品も制作し始めた。
そのうちの1つ、当時女性からNo.1人気だった南佳也と今でも大人気のしみけんが出演している『ECSTASY ~危険な香り~』を観てみたが、SILK LABOに代表される現在の女性向け作品とはまるで違った。

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 女性向けAV V&Rプランニング しみけん 南佳也
©『ECSTASY ~危険な香り~』

 南佳也主演の前半は、ジャンルは義母ものである。ストーリーらしいストーリーはなく、舌を使った南の愛撫はちゅぱちゅぱと激しい音を立てている。最終的には腹に射精し、なぜか精液をへそに塗りこみ、その指を舐めとらせていた。
一方のSILK LABOはそもそも近親相姦ものをまだ撮っていない。また、多くはドラマ仕立ての作品で、愛撫も音を立てず静か、精液が映るのは『Eyes on you 鈴木一徹』だけと、ほとんど真逆だ。

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 女性向けAV V&Rプランニング しみけん 南佳也
しみけん(左)と南佳也(右)。
3PのBL的風味だけは現在も見られる。

 後半、南としみけんと女優の3Pが行われるが、こちらも呆気にとられる展開だ。しみけんは女優の股にトイレットペーパーのカスがついているのを発見し舐めとり、南佳也は手マンで潮を噴かせた後、その潮の臭いの強さを専用のセンサーで測っていた。もうめちゃくちゃだ。まあ、思わず笑ってしまったので、これは褒め言葉である。だから作品として質が悪いとは言わないが、しかし女性にウケないのは火を見るより明らかだ。

 興味深いなと思ったのは、『ECSTASY ~危険な香り~』に出演したはずのしみけんが、SILK LABO作品である『最後のキスを忘れない』の出演にあたって「女性向けは初だったので、誘われたときは光栄でした」(『女性自身』2011.7.12)と発言していることだ。
これはただ、しみけんの記憶力が悪かっただけとか、そういう話ではないと思う。V&Rというゴリゴリに男性向けの有名メーカーが、男性向けとさほど内容の変わらない女性向け作品を撮ったものだから、女性向けとして記憶していなかったのだと解釈すべきだろう。

フットワークの軽さが生んだ、女性向けという名のポルノ

 それにしても、V&Rプランニングはなぜ女性向けサービスを始めたのか。
メーカーに直接聞いたわけではないから想像の域を出ないが、このころ衛星放送の視聴率調査から昼間にアダルトチャンネルを観ている専業主婦の存在が示唆され、不況気味だったAV業界が女性を新たな市場として見出したと言われている。
さて隙間産業を開拓していきますか、というときに、マニアックでアバンギャルドな作品を得意としていたV&Rプランニングのフットワークが軽かった、ということではないか。

 だが、V&Rプランニングの女性向け事業が成功を収めたのかというと、それはよく分からない。まあ、宅配サービスは1500人の会員すべてが継続的にレンタルしてくれるはずはないから、運営費用はかからなかっただろうが、売り上げもそれほどなかっただろう。
オリジナルの女性向けAVもあまり売れなかったのだと思う。売れて、業界に爪痕を残していたならば、現在もっと知名度があってしかるべきだ。

 ポルノグラフィをめぐるフェミニズムの議論をめちゃくちゃ大ざっぱにまとめると、当初は「ポルノの視聴者は男性である」という暗黙の前提から「ポルノは男性が女性を消費する構造があり差別的だ」という主張が多かったのに対し、徐々に「女性が無垢で純粋でポルノなんか観ないかのようなステレオタイプもまた問題だ」という流れに変わっていったように思う。
「女はポルノを観る」というかたちでそのようなステレオタイプは解消されつつある。しかし女性向けAVの傾向は、SILK LABOの一定の成功によって「女の子は、ラブラブで汁気のない、清潔でソフトなエッチが好きだよね!」と、要するに良くも悪くもステレオタイプ的な「女性」に向けて作品を撮るようになったと思われる。

 「女はポルノを観る」の次にあるステップは、「女性向けポルノが男性向け作品と同等のレベルに多様化する」というかたちでジェンダー差を解消していくことだろう(SILK LABOはAV初心者向けのコンテンツをあえて制作しているのであって、この目標を持っていないわけではないということは承知しているし、男性向けメーカー側からの歩み寄りも重要である)。
ただ、当時にしてみれば、V&Rは先見の明がありすぎたのだろう。その意図が何であったにせよ、少なくとも表面上、段飛ばしで「女性向けポルノが男性向け作品と同等のレベルに多様化する」を目指して駆け上がった結果、転がり落ちてしまったように見える。

 商売だから売れなければ仕方ないのだが、V&Rが女性向けAV事業から手を引いてしまったのは私からすれば残念だ。当時の作風のままでいいかどうかはおいておくとして、女性向けAVのバリエーションを広げる画期的なメーカーが、この先も登場し続けてくれることを願っている。

Text/服部恵典

次回は <人のオナニーを笑うな――「シコる」「抜く」をめぐる女の語彙と男の多様性>です。
男性のオナニーは「シコる」「抜く」などと言いますが、なぜか女性のオナニーを表す動詞は存在しない。女性のオナニーを語るための言葉が発明されるとき日本は激変すると予言する服部恵典さんですが、いや、男性のオナニーこそ実は謎に包まれているのではないかと気付きます。自分のやり方が少数派だと気付いたきっかけとは……?

ライタープロフィール

服部恵典
東京大学大学院修士課程。同大学卒業論文では、女性向けアダルト動画について社会学的に論じる。
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