バレないようにAVを見たい女性の願望

 V&Rプランニングは女性向け事業として、まず1998年6月1日に女性専用AV宅配サービス「Pandore」を開始した。「パンフレットから見たい作品を選び、あとは日時、時間を指定してもってきてもらうだけ」(『女性セブン』1999.4.29)というものである。

 1本のレンタル料は1週間で2000円(送・返料含む)で、2本目以降は500円。「V&Rで制作し、女性に人気がありそうな30本を厳選した」(『週刊大衆』1998.7.20)という。
かなり割高で、さらに「身分証明書のコピーが必要など手間がかかるため、『30~50人集まれば…』と考えていた」が、「1か月で会員100人、今では20代後半~30代前半の主婦or一人暮らしのOLを中心にその数、700人!」(『FLASH』1999.3.23)と想定を上回る人気があったようだ。
TSUTAYAなど大手レンタルショップでAVをレンタルしたほうが絶対に安いが、女性にとって「誰にもバレないようにAVを借りられる」ということにはそれだけの価値があった、ということだろう。なお『ガツン!』2001年8月9日号時点では、会員数は1500人にまで増えている。

 ちなみに、このときのレンタル上位作品は『盗撮オールナイト』、カンパニー松尾監督の『私を女優にしてください』シリーズ、それから『東京レイプMap』など。
カン松作品や盗撮モノが人気であることにはなるほどなと思うところもあるが(連載第2回「盗撮カメラとラブラブエッチ」参照)、女性が選ぶAVとはいえ、男性との嗜好の違いは、それほど大きくはないようだ。

女性にウケない女性向けAV

 だがその後、Pandoreは男性向け作品を女性に宅配するだけでなく、女性向けにオリジナル作品も制作し始めた。
そのうちの1つ、当時女性からNo.1人気だった南佳也と今でも大人気のしみけんが出演している『ECSTASY ~危険な香り~』を観てみたが、SILK LABOに代表される現在の女性向け作品とはまるで違った。

 南佳也主演の前半は、ジャンルは義母ものである。ストーリーらしいストーリーはなく、舌を使った南の愛撫はちゅぱちゅぱと激しい音を立てている。最終的には腹に射精し、なぜか精液をへそに塗りこみ、その指を舐めとらせていた。
一方のSILK LABOはそもそも近親相姦ものをまだ撮っていない。また、多くはドラマ仕立ての作品で、愛撫も音を立てず静か、精液が映るのは『Eyes on you 鈴木一徹』だけと、ほとんど真逆だ。

 後半、南としみけんと女優の3Pが行われるが、こちらも呆気にとられる展開だ。しみけんは女優の股にトイレットペーパーのカスがついているのを発見し舐めとり、南佳也は手マンで潮を噴かせた後、その潮の臭いの強さを専用のセンサーで測っていた。もうめちゃくちゃだ。まあ、思わず笑ってしまったので、これは褒め言葉である。だから作品として質が悪いとは言わないが、しかし女性にウケないのは火を見るより明らかだ。

 興味深いなと思ったのは、『ECSTASY ~危険な香り~』に出演したはずのしみけんが、SILK LABO作品である『最後のキスを忘れない』の出演にあたって「女性向けは初だったので、誘われたときは光栄でした」(『女性自身』2011.7.12)と発言していることだ。
これはただ、しみけんの記憶力が悪かっただけとか、そういう話ではないと思う。V&Rというゴリゴリに男性向けの有名メーカーが、男性向けとさほど内容の変わらない女性向け作品を撮ったものだから、女性向けとして記憶していなかったのだと解釈すべきだろう。