「私は被災者ではない」

 山川徹『それでも彼女は生きていく』は、東日本大震災をきっかけにAV女優になった7名の女性へのインタビュー集である。
印象的なのは、彼女たちの多くが語る「私は被災者ではない」という言葉だ。家を流された人がいる、職を失った人がいる、でも自分は“それほどには”苦しんでいない、だから私は「被災者」ではない、と彼女らは言う。
そんな言葉を聞くと、北海道出身でまず間違いなく「被災者」ではない私がいま震災について語っていることを、恥じ入るほかない。

 彼女らは「被災者」ではないと言う。にもかかわらず、間違いなく震災は彼女たちに多大な影響を与えており、家族を救うため、ある女優にいたっては被災地に寄付するために、AVに出る。
先ほど、風俗客の気持ちを「理解できる」と書いたが、この場合は、彼女たちの気持ちを簡単に「理解できる」と言ってしまうことは、決して優しさではないのではないか。なにせ、そう簡単にAVに出ることを決められるだろうか?

 そう考えるとき、大事だと思うのは、著者の山川のこのような発言である。

 取材をするまでは、震災とAV女優になるという行為には色濃くてわかりやすい因果関係があると思い込んでいたんですよ。たとえば、震災で親を亡くしてお金もなく必要に迫られて…というように。もちろん震災直後であればそういう例もあったのでしょうが、取材をして話を聞くと因果関係はかなり薄かった。[…]ただ、彼女たち全員が口にした「震災がなければAVの道を選ばなかった」という言葉は大切にしたかったんです。[…]少なくとも、震災の影響を受けた人生を送っているという彼女たちの認識は本物なんですよ。
「震災があったからAV女優の道を選んだ―ルポライターが彼女たちの物語を書いた理由」

 震災とAVデビューとを簡単に結びつけず、しかし彼女たちの選択を非合理的なものとして片付けもせず、「自分ならありえないな」ではなくて、「ありえた」話として本書を読んでほしい。それは実際に「あった」のだから。