日本の女性向けAVを扱った初の本格的な論文

 2016年12月、Porn Studiesというポルノ研究専門の学術雑誌に、文京学院大学助教アレクサンドラ・ハンブルトンの「女が観るとき――日本の女性向けポルノグラフィの転覆させる潜在可能性」“When Women Watch: The Subversive Potential of Female-Friendly Pornography in Japan”)という論文が発表された。元の頭韻をちょっとだけ意識して「女性が視聴する時代」と訳してもいいだろうか。

 これは、2012年から2014年にかけてSILK LABOを対象に行われたフィールドワークが元になっている論文である。
論文ははじめに、会社およびコンテンツが誕生するにいたった経済的要因を分析、次にSILK LABOがファン・コミュニティを作り上げるために行った工夫を議論する。
その後、「女性の視点」の役割を指摘し、最後に「女性向けポルノ」が女性の欲望を肯定するポスト・フェミニズム思想の勝利を示すものでありながら、しかし完全に商品経済に取り込まれてしまっているという複雑さを考察する、という構成である。

 社会学見習いが知る限りではあるが、これは日本の女性向けAVを主たるテーマとした初の本格的な論文であるはずだ(これまでは、SILK LABOプロデューサーの牧野江里にインタビューして軽くまとめた紀要論文しかなかった)。
「なんで女性向けAVを研究しているんですか?」と聞かれるたびに「なんでみんなは女性向けAVを研究しないんだろう……」と思っていた私にとっては、ようやく発表された尊敬してやまない好敵手である。

 前節で予告した、女性向けAVと「汁」についての議論は、この論文の1ピースにすぎない。
本当は論文を全部紹介したいのだが、それは私の修論のために残しておかないといよいよ書けなくなってしまうので、ハンブルトンさんには大変申し訳ないけれども、どうかほんの一部の紹介のみでご容赦いただきたい。